
この記事で学ぶこと
- 金利と債券価格の逆相関
- 金利と株式市場の関係
- 金利と為替の関係
- 金利動向を投資判断に活かす方法
- シリーズ全体のまとめ

金利と債券価格の逆相関
債券投資において最も重要な原則が、金利と債券価格は逆方向に動く ということです。
なぜ逆相関になるのか
既存の債券が年利3%のクーポン(利息)を払っている状況で、市場金利が4%に上昇したとします。
- 新しく発行される債券は4%の利息を払う
- 既存の3%の債券は魅力が低下する
- 既存の債券を売りたければ、価格を下げる 必要がある
逆に、市場金利が2%に低下すれば:
- 新しい債券は2%しか利息を払わない
- 既存の3%の債券は魅力が増す
- 既存の債券の価格は上昇 する
金利上昇 → 債券価格下落
金利低下 → 債券価格上昇
重要
金利と債券価格は必ず逆方向に動きます。これは債券投資の最重要原則です。金利上昇局面では債券価格は下落します。
【体感】債券価格シミュレーター
「金利が上がると、なぜ債券価格が下がるのか?」 以下のシミュレーターで、市場金利 のスライダーを動かして、債券価格の変化を体感してみてください。
債券価格シミュレーター
市場金利が動くと、持っている債券(利率3%)の価格はどうなる?
解説:
あなたはこの債券(利率3%)を持っています。市場金利と同じなので、価格は額面通り(100円)です。デュレーション:金利感応度の指標
デュレーション は、金利が1%変化したときに債券価格が何%変化するかを示す指標です。
| デュレーション | 金利1%上昇時の価格変化 |
|---|---|
| 2年 | 約−2% |
| 5年 | 約−5% |
| 10年 | 約−10% |
| 20年 | 約−20% |
- 残存期間が長い ほどデュレーションは大きい
- クーポンが低い ほどデュレーションは大きい
- デュレーションが大きいほど、金利変動の影響を受けやすい
債券投資への示唆
| 金利見通し | 推奨される戦略 |
|---|---|
| 金利上昇予想 | 短期債を選ぶ(価格下落リスクを抑える) |
| 金利低下予想 | 長期債を選ぶ(価格上昇メリットを享受) |
| 金利見通し不透明 | 中期債でバランスをとる |
金利と株式市場の関係
金利は株式市場にも大きな影響を与えます。ただし、その関係は単純ではなく、金利変動の背景 によって影響が異なります。
金利が株価に影響する3つの経路
1. 割引率の変化株式の理論価格は、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて計算します。
株価 = 将来キャッシュフロー ÷ (1 + 割引率)^年数
- 金利上昇 → 割引率上昇 → 株価に下落圧力
- 金利低下 → 割引率低下 → 株価に上昇圧力
特にグロース株(成長株) は、将来のキャッシュフローが大きいため、金利変動の影響を受けやすいです。
【実例】2022年のグロース株急落—金利上昇で「夢」が値崩れ
2022年、FRBの急速な利上げにより、グロース株は歴史的な下落を記録しました。
主要指数の比較(2022年の騰落率)| 指数 | 特徴 | 2022年騰落率 |
|---|---|---|
| NASDAQ100 | ハイテク・グロース中心 | −33% |
| S&P500 | 大型株全般 | −19% |
| NYダウ | オールドエコノミー中心 | −9% |
グロース株中心のNASDAQは、S&P500の約1.7倍、ダウの約3.7倍下落しました。
なぜグロース株が大きく下げたのかグロース株の価値は「将来の大きな利益」に対する期待で成り立っています。
株価 = 将来キャッシュフロー ÷ (1 + 割引率)^年数
金利が上がると割引率が上昇し、遠い将来の利益ほど現在価値が小さくなります。
具体例:10年後に100億円稼ぐ企業の現在価値| 割引率(≒金利) | 現在価値 | 金利0%比 |
|---|---|---|
| 0% | 100億円 | 100% |
| 3% | 74億円 | −26% |
| 5% | 61億円 | −39% |
| 7% | 51億円 | −49% |
金利が5%に上がるだけで、将来の利益の価値は約4割減。これがグロース株急落のメカニズムです。
個別銘柄の例| 銘柄 | 2021年末 | 2022年末 | 騰落率 |
|---|---|---|---|
| Tesla | $352 | $123 | −65% |
| Meta | $336 | $120 | −64% |
| Amazon | $166 | $84 | −49% |
| Apple | $177 | $129 | −27% |
成長期待の高いTeslaやMetaは6割以上下落。一方、成熟企業のAppleは比較的下落が小さく抑えられました。
金利上昇局面では「夢より現実」、つまりバリュー株や高配当株が相対的に有利 になります。
2. 企業収益への影響| 金利変動 | 企業への影響 |
|---|---|
| 金利上昇 | 借入コスト増加 → 収益圧迫 |
| 金利低下 | 借入コスト減少 → 収益改善 |
有利子負債が多い企業ほど、金利変動の影響を受けます。
3. 代替投資先としての魅力| 金利水準 | 投資家行動 |
|---|---|
| 金利が高い | 債券の魅力が増す → 株式から資金流出 |
| 金利が低い | 債券の魅力が減る → 株式に資金流入 |
「TINA(There Is No Alternative)」という言葉があります。超低金利環境では債券では十分なリターンが得られず、株式に資金が集まりやすくなります。
金利上昇が必ずしも株安とは限らない
金利と株価の関係は、なぜ金利が動いているか によって変わります。
| シナリオ | 金利 | 株価 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 景気拡大で利上げ | ↑ | ↑ | 企業収益の改善が金利上昇を上回る |
| インフレ対応で急激な利上げ | ↑ | ↓ | 景気後退懸念で株価下落 |
| 景気後退で利下げ | ↓ | ↓ | 企業収益悪化の影響が大きい |
| 景気回復期待で利下げ終了 | → | ↑ | 先行きへの楽観で株価上昇 |
セクター別の金利感応度
金利変動の影響は、セクター(業種)によって異なります。
| セクター | 金利上昇時 | 理由 |
|---|---|---|
| 銀行・保険 | 有利 | 利ざや拡大、運用利回り向上 |
| 不動産 | 不利 | 借入コスト増、不動産価格に下落圧力 |
| 公益 | 不利 | 高配当株の相対的魅力低下 |
| ハイテク・グロース | 不利 | 将来キャッシュフローの現在価値が低下 |
| 素材・エネルギー | まちまち | インフレ期待と連動することが多い |
金利と為替の関係
金利は為替レートにも大きな影響を与えます。特に金利差 が重要です。
金利差と為替の基本関係
高金利通貨 → 買われやすい(通貨高)
低金利通貨 → 売られやすい(通貨安)
ポイント
金利差は為替の最大の決定要因の一つです。日米金利差が拡大すると円安ドル高、縮小すると円高ドル安に動きやすくなります。
投資家は、より高いリターンを求めて高金利通貨に資金を移動させます。
日米金利差とドル円相場
日米の金利差は、ドル円相場に大きな影響を与えます。
金利差が拡大すると、ドルで運用した方が有利なため、円を売ってドルを買う 動きが強まり、円安ドル高が進みます。
【実例】2022-2024年の円安進行—金利差が生んだ歴史的ドル高
2022年から2024年にかけて、円は対ドルで歴史的な下落を記録しました。その主因は日米の金利差拡大です。
日米金利差とドル円の推移| 時期 | 米10年金利 | 日10年金利 | 金利差 | ドル円 |
|---|---|---|---|---|
| 2021年1月 | 1.0% | 0.05% | 0.95% | 104円 |
| 2022年10月 | 4.2% | 0.25% | 3.95% | 151円 |
| 2023年11月 | 4.9% | 0.85% | 4.05% | 151円 |
| 2024年7月 | 4.2% | 1.05% | 3.15% | 161円 |
金利差が1%未満だった2021年初めは104円でしたが、金利差が4%に拡大した2024年7月には161円 と、約55%の円安 が進行しました。
生活への影響| 項目 | 2021年 | 2024年 | 変化 |
|---|---|---|---|
| iPhone 15 Pro(128GB) | 約11万円相当 | 約16万円 | +45% |
| 海外旅行(ハワイ1週間) | 約25万円 | 約40万円 | +60% |
| 輸入小麦(1トン) | 約4万円 | 約6万円 | +50% |
円安は輸出企業には追い風ですが、輸入品価格の上昇を通じて家計を圧迫しました。「為替は金利差で動く」という原則が、私たちの生活に直結した事例です。
キャリートレード
キャリートレード は、低金利通貨で借りて、高金利通貨で運用する取引です。
円を借りる(低金利)
↓
円を売ってドルを買う
↓
ドルで運用(高金利)
↓
金利差分が利益
キャリートレードが活発になると:
- 円安 が進む(円売り)
- 高金利通貨高 が進む
逆に、リスクオフ局面ではキャリートレードの巻き戻し(円買い)が起こり、急激な円高 になることがあります。
金利と為替の注意点
金利差だけで為替は決まりません。以下の要因も重要です。
| 要因 | 影響 |
|---|---|
| 経済成長率の差 | 成長率が高い国の通貨は買われやすい |
| インフレ率の差 | インフレが高い国の通貨は売られやすい |
| 貿易収支 | 貿易黒字国の通貨は買われやすい |
| 地政学リスク | リスク回避で安全通貨(円、ドル)が買われる |
| 市場のポジション | 一方向に傾いたポジションは巻き戻しリスク |
金利動向を投資判断に活かす
チェックすべき金利指標
| 指標 | 何がわかるか | 確認頻度 |
|---|---|---|
| 政策金利 | 中央銀行のスタンス | 金融政策決定会合ごと |
| 10年国債利回り | 長期金利の動向、市場の期待 | 毎日 |
| 2s10sスプレッド | イールドカーブの形状 | 毎週 |
| 日米金利差 | 為替への影響 | 毎週 |
| 実質金利 | インフレ調整後の金利水準 | 毎月 |
金利局面別の投資戦略
金利上昇局面(利上げサイクル)| 資産クラス | 戦略 |
|---|---|
| 債券 | 短期債中心、変動金利商品 |
| 株式 | バリュー株、金融株、高金利メリット銘柄 |
| 為替 | 利上げ国の通貨は買われやすい |
| 資産クラス | 戦略 |
|---|---|
| 債券 | 長期債で価格上昇メリットを狙う |
| 株式 | グロース株、高配当株の魅力が増す |
| 為替 | 利下げ国の通貨は売られやすい |
| 資産クラス | 戦略 |
|---|---|
| 債券 | キャリー(利息収入)重視 |
| 株式 | ファンダメンタルズ重視の銘柄選択 |
| 為替 | 金利以外の要因(経済指標など)に注目 |
金利情報の入手先
| 情報源 | 内容 |
|---|---|
| 日本銀行ウェブサイト | 政策金利、金融政策決定会合の結果 |
| 財務省ウェブサイト | 国債の利回り情報 |
| Bloomberg / Reuters | リアルタイムの金利情報 |
| FRED(St. Louis Fed) | 米国の金利データ、過去の推移 |
| 経済指標カレンダー | 中央銀行会合、経済指標の発表予定 |
シリーズ全体のまとめ
5回にわたって金利の基礎から実践的な活用方法まで解説してきました。最後に、シリーズ全体の要点を振り返ります。
第1回:金利の基礎
- 金利 はお金の貸し借りにおける「使用料」
- お金の時間価値: 今日の100万円と1年後の100万円は価値が違う
- 複利効果: 長期投資では複利が大きな差を生む
- 実質金利: インフレを考慮した金利で判断することが重要
第2回:金利の種類と金融市場
- 短期金利 は中央銀行がコントロール、長期金利 は市場で決まる
- 政策金利 は金利水準の起点、市場金利 は需給と期待で決まる
- 金融市場には中央銀行、銀行、機関投資家、政府、海外投資家が参加
第3回:中央銀行と金融政策
- 中央銀行の使命は物価の安定 と経済の健全な成長
- 利上げ は景気を冷やす、利下げ は景気を刺激する
- 量的緩和(QE) と量的引き締め(QT) は非伝統的政策
第4回:イールドカーブを読む
- 順イールド は正常な形状、逆イールド は景気後退のサイン
- フラット化 は景気拡大の終盤、スティープ化 は景気回復の初期
- 2s10sスプレッド を定期的にチェック
第5回:金利と市場の関係
- 金利と債券価格 は逆相関
- 金利と株価 の関係は、金利変動の背景次第
- 金利差 は為替に大きな影響を与える
金利を理解することの意義
金利は経済の「体温計」です。金利の動きを理解することで:
- 景気の先行きを予測 できる
- 中央銀行の政策意図 を読み解ける
- 資産配分の判断 に活かせる
- 為替の動きを理解 できる
- 経済ニュースの背景 がわかる
金利の知識は、投資家としての判断力を高める基盤となります。
最後に
金利マスター講座、全5回お読みいただきありがとうございました。
金利は一見すると難しく感じるかもしれませんが、基本的な仕組みを理解すれば、経済や市場の動きがより鮮明に見えてきます。
日々のニュースで「日銀が利上げ」「米国債利回り上昇」「逆イールド発生」といった言葉を目にしたとき、その意味と影響を自分なりに考えられるようになっていれば、このシリーズの目的は達成です。
投資判断において、金利の動向を一つの重要な要素として活用していただければ幸いです。
金利マスター講座
- 第1回:金利の基礎
- 第2回:金利の種類と金融市場
- 第3回:中央銀行と金融政策
- 第4回:イールドカーブを読む
- 第5回:金利と市場の関係(本記事)





