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【宇宙産業マスター講座 第6回】地政学と持続可能性 - 宇宙の軍事化とデブリ問題

米中宇宙覇権競争、衛星攻撃兵器(ASAT)、各国の宇宙軍、スペースデブリ問題、ケスラーシンドロームのリスク、アストロスケールのデブリ除去ビジネス、宇宙法と国際ルール、持続可能な宇宙利用まで、宇宙産業の地政学と課題を包括的に解説します。

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【宇宙産業マスター講座 第6回】地政学と持続可能性 - 宇宙の軍事化とデブリ問題
宇宙産業マスター講座
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はじめに

これまで5回にわたり、宇宙産業の全体像、ロケット、衛星サービス、宇宙探査について解説してきました。最終回となる今回は、宇宙産業が直面する地政学的課題持続可能性の問題に焦点を当てます。

宇宙は「最後のフロンティア」と呼ばれますが、同時に「第4の戦場」にもなりつつあります。米国と中国は宇宙覇権をめぐって激しく競争し、各国は宇宙軍を設立しています。衛星攻撃兵器(ASAT)の開発も進み、宇宙空間の平和利用が脅かされています。

もう一つの深刻な問題がスペースデブリです。地球軌道上には36,000個以上の追跡可能なデブリが存在し、その数は増え続けています。最悪のシナリオでは、ケスラーシンドローム——デブリの連鎖的衝突——により、特定の軌道が使用不能になる可能性があります。

本記事では、宇宙覇権競争、宇宙の軍事化、スペースデブリ問題、デブリ除去ビジネス、宇宙法と国際ルール、そして持続可能な宇宙利用に向けた取り組みまで、包括的に解説します。


新たな宇宙覇権競争

冷戦期の米ソ宇宙開発競争から半世紀以上が経ち、今、新たな宇宙覇権競争が始まっています。

新たな宇宙覇権競争

米中対立の構図

21世紀の宇宙覇権競争は、米国と中国を中心に展開されています。

項目米国中国
年間宇宙予算約620億ドル約140億ドル
年間打ち上げ数100回+60回+
測位衛星GPS(31基)BeiDou(45基+)
宇宙ステーションISS(国際協力)天宮(独自運用)
月探査Artemis計画嫦娥シリーズ
同盟Artemis協定(40カ国+)ILRS計画(ロシア等)

なぜ宇宙が重要なのか

宇宙は現代社会のインフラ基盤となっています。

分野宇宙への依存
軍事偵察、通信、精密誘導
経済GPS、通信、金融取引の時刻同期
民生天気予報、地図、災害監視

宇宙を制する者が、軍事的・経済的優位を握る時代になりました。

技術覇権の争い

技術分野米国中国
ロケット再利用SpaceXが世界をリード開発中(長征9号)
衛星コンステレーションStarlink(7,000基+)計画中(国綱)
有人宇宙飛行ISS、Artemis天宮、独自月計画
宇宙ステーションISS(2030年退役)天宮(運用中)

重要

ブロック化する宇宙

宇宙開発は米国主導の「Artemis陣営」と中国・ロシア主導の「ILRS陣営」に分裂しつつあります。これは冷戦時代の東西対立を彷彿とさせ、「宇宙の新冷戦」とも呼ばれています。


宇宙の軍事化

宇宙空間は「平和利用」が原則とされてきましたが、実態は軍事化が急速に進んでいます。

宇宙の軍事化 - 衛星攻撃兵器

衛星攻撃(ASAT)兵器

ASAT(Anti-Satellite)兵器は、敵国の衛星を無力化・破壊する兵器です。

種類方式特徴保有国
直接上昇式地上発射ミサイル物理的破壊、デブリ発生米・露・中・印
共軌道式キラー衛星で接近検知困難、近接攻撃露・中(疑惑)
サイバー攻撃制御システムのハッキング物理破壊なし、帰属不明多数
電子戦GPSや通信を妨害可逆的、低コスト多数

ASAT実験の歴史

内容発生デブリ
2007年中国気象衛星「風雲1C」を破壊3,500個+
2008年米国偵察衛星USA-193を破壊少数(低軌道)
2019年インド試験衛星を破壊400個+
2021年ロシア旧ソ連衛星を破壊1,500個+

注意

デブリを生むASAT実験

中国とロシアのASAT実験は、数千個のデブリを発生させ、国際社会から強い非難を受けました。これらのデブリは何十年も軌道上に留まり、ISSやStarlinkを含むすべての衛星にとって脅威となっています。

非破壊型の脅威

物理的破壊を伴わない攻撃も増えています。

脅威内容事例
ジャミングGPS信号の妨害ウクライナ戦争で多用
スプーフィング偽のGPS信号を送信民間航空機への影響報告
サイバー攻撃衛星制御のハッキング2022年Viasatへの攻撃
レーザー照射偵察衛星のセンサーを眩惑中国による疑惑

世界の宇宙軍

宇宙の軍事的重要性が高まる中、各国は宇宙専門の軍組織を設立しています。

世界の宇宙軍・宇宙部隊

主要国の宇宙軍組織

組織名設立年規模特徴
米国米宇宙軍(USSF)2019年約16,000人独立軍種
中国戦略支援部隊2015年非公開宇宙・サイバー・電子戦統合
ロシア宇宙軍2015年約5,000人航空宇宙軍の一部
フランス宇宙軍2019年約500人欧州初の宇宙軍
日本宇宙作戦群2020年約100人航空自衛隊内
インド国防宇宙庁2019年非公開三軍統合組織

米宇宙軍(USSF)

米宇宙軍は、陸・海・空・海兵隊・沿岸警備隊に次ぐ第6の軍種として2019年に設立されました。

項目内容
任務宇宙領域の優位確保、宇宙作戦の遂行
人員約16,000人
主要能力衛星運用、宇宙監視、ミサイル警戒
予算年間約300億ドル

日本の宇宙作戦群

日本も2020年に宇宙作戦群を航空自衛隊内に設立しました。

項目内容
任務宇宙状況監視(SSA)、衛星防護
人員約100人
装備宇宙監視レーダー(山口県)
連携米宇宙軍との協力強化

ポイント

宇宙状況監視(SSA)

SSA(Space Situational Awareness)は、軌道上の物体(衛星、デブリ)を追跡・監視する活動です。衝突回避、不審な衛星の検知、デブリ追跡など、宇宙の安全保障に不可欠な機能です。


スペースデブリの現状

宇宙開発の「負の遺産」であるスペースデブリは、深刻な問題となっています。

スペースデブリの現状

デブリの数

カテゴリサイズ数量検知状況
追跡可能10cm以上36,500個+カタログ化済み
小型1cm-10cm100万個+検知困難
微小1mm-1cm1億個+検知不可能

デブリの速度

軌道上のデブリは秒速7〜8km(時速約25,000km)で周回しています。

サイズ衝突時の影響
1mm宇宙服・ソーラーパネルを損傷
1cm衛星に致命的損傷
10cm衛星を完全破壊

注意

1cmのデブリ = 手榴弾

秒速7kmで衝突する1cmのデブリは、エネルギー換算で手榴弾の爆発に匹敵します。小さな破片でも、衛星にとっては致命的な脅威です。

主なデブリ発生源

事象発生デブリ
2007年中国ASAT実験3,500個+
2009年イリジウム・コスモス衝突2,000個+
2021年ロシアASAT実験1,500個+
継続的運用終了衛星、ロケット上段毎年増加

デブリの分布

軌道高度デブリ密度主な衛星
LEO200-2,000km最も高いISS、Starlink
MEO2,000-35,786km中程度GPS
GEO35,786km高い通信衛星

ケスラーシンドローム

最悪のシナリオがケスラーシンドロームです。

ケスラーシンドローム - 連鎖的衝突のリスク

ケスラーシンドロームとは

1978年にNASAのドナルド・ケスラーが提唱した理論で、デブリの連鎖的衝突により軌道環境が使用不能になるシナリオです。

ステップ内容
1. 衝突発生衛星とデブリが衝突
2. デブリ増加数百〜数千の破片が発生
3. 連鎖衝突新たなデブリがさらに衝突
4. 軌道使用不能特定の軌道帯が危険で使えなくなる

発生した場合の影響

影響内容
衛星サービス停止GPS、通信、気象観測が使用不能
宇宙開発停滞新規衛星打ち上げが困難に
ISS・宇宙ステーション有人活動が危険に
経済損失1日あたり数十億ドル規模

現状のリスク評価

NASAの研究によると、現在のデブリ密度でも、衝突は今後増加し続けるとされています。

指標状況
衝突回避マヌーバISSは年間数回実施
Starlinkの回避月に数千回の軌道調整
大型デブリの増加率年間約200個

重要

「臨界点」への警告

一部の専門家は、LEOの特定高度帯(700-1,000km)は既に「臨界点」に近づいていると警告しています。デブリを積極的に除去しない限り、ケスラーシンドロームは避けられない可能性があります。


デブリ対策技術

デブリ問題への対策は、大きく除去予防に分けられます。

スペースデブリ対策技術

能動的デブリ除去(ADR)

ADR(Active Debris Removal)は、既存のデブリを積極的に除去する技術です。

方式内容開発企業
ロボットアーム機械的に把持ClearSpace(ESA)
磁気ドッキング磁力で結合アストロスケール
ネット/ハープーン投網・銛で捕獲Airbus
レーザー光圧で軌道変更研究段階

予防措置

デブリを「出さない」ための設計指針も重要です。

対策内容
パッシベーション運用終了時に燃料・電池を排出し、爆発を防止
25年ルール運用終了後25年以内に大気圏再突入
デオービット装置膜や帆を展開して減速・落下を促進
衝突回避マヌーバ追跡データに基づく軌道変更

国際ガイドライン

ガイドライン策定機関内容
デブリ低減ガイドラインIADC/国連設計指針、25年ルール
長期持続可能性ガイドライン国連COPUOS包括的な持続可能性指針
ISO規格ISO技術標準

ヒント

ガイドラインの限界

現在のガイドラインは法的拘束力がない「自主的な取り組み」です。遵守状況は国や企業によってまちまちで、実効性に課題があります。


アストロスケール — デブリ除去の先駆者

日本発の宇宙ベンチャーアストロスケールは、デブリ除去ビジネスの先駆者です。

アストロスケール - デブリ除去の先駆者

企業概要

項目内容
設立2013年(シンガポール)、本社: 東京
創業者岡田光信
資金調達累計約500億円
ミッション軌道上サービスのリーダー
従業員約600人(グローバル)

主要ミッション

ミッション内容成果
ELSA-d2021年磁気ドッキング技術の実証捕獲・解放に成功
ADRAS-J2024年実際のデブリへの接近世界初のデブリ近接観測成功
COSMIC計画中商業デブリ除去サービスJAXA・ESAと契約

ADRAS-Jの意義

2024年、アストロスケールのADRAS-J(Active Debris Removal by Astroscale-Japan)は、実際のデブリへの近接観測に世界で初めて成功しました。

項目内容
対象H-IIAロケットの上段(2009年打ち上げ)
サイズ約11m×4m、約3トン
成果数十メートルまで接近、詳細撮影
意義将来の除去ミッションに必要なデータ取得

ビジネスモデル

デブリ除去は「誰が費用を払うのか」が課題です。

顧客動機
衛星オペレーター自社デブリの除去義務化に備え
宇宙機関過去に放置したデブリの責任
保険会社衝突リスク低減による保険料削減

ポイント

デブリ除去市場

デブリ除去市場は2030年に約30億ドル規模に成長すると予測されています。アストロスケールはこの市場のパイオニアとして、先行者利益を狙っています。


宇宙法と国際ルール

宇宙活動を規律する国際法の枠組みは、1960年代から大きく変わっていません

宇宙法と国際ルール

主要な宇宙条約

条約内容課題
宇宙条約1967年宇宙の平和利用、領有禁止抜け穴多い、執行力なし
月協定1979年月資源は人類共有財産主要国は未批准
アルテミス協定2020年月資源採掘を容認、安全区域中露は不参加

宇宙条約の原則

1967年の宇宙条約(Outer Space Treaty)は、宇宙法の基礎となる条約です。

原則内容
領有禁止宇宙空間・天体の国家領有を禁止
平和利用宇宙の平和的利用を促進
大量破壊兵器禁止宇宙への核兵器配備を禁止
自由利用すべての国が宇宙を自由に探査
国家責任民間活動も国家が責任を負う

宇宙条約の限界

限界内容
通常兵器は規制対象外ASAT兵器の配備を禁止していない
デブリ規制なしデブリ発生への法的責任が曖昧
資源採掘のルール未整備月や小惑星の資源所有権が不明確
執行メカニズムなし違反への制裁手段がない

アルテミス協定

2020年に米国主導で締結されたアルテミス協定は、月探査の新たなルールを定めています。

項目内容
署名国40カ国以上(日本、欧州諸国、韓国など)
資源採掘月資源の採掘・利用を容認
安全区域活動エリア周辺の「安全区域」設定
透明性ミッション情報の公開
不参加国中国、ロシア

注意

分断する宇宙秩序

アルテミス協定に中国とロシアが参加していないことは、宇宙の「二つの秩序」が並立する状況を生み出しています。将来、月面で異なるルールを主張する陣営が衝突するリスクがあります。


持続可能な宇宙利用に向けて

宇宙を将来世代も利用できるよう、持続可能な宇宙利用への取り組みが求められています。

持続可能な宇宙利用に向けて

4つの柱

内容
技術革新デブリ除去、衛星修理、パッシベーション
国際規制ガイドラインの法制化、ASAT実験禁止
経済インセンティブ除去への補助金、環境配慮への優遇
国際協力SSAデータ共有、衝突回避の調整

Space Sustainability Rating

SSR(Space Sustainability Rating)は、衛星ミッションの持続可能性を評価する新たな取り組みです。

項目内容
開発世界経済フォーラム、ESA、MIT等
評価基準デブリ低減、衝突回避、情報共有
目的「良い行動」への市場インセンティブ
参加企業SpaceX、Planet等が評価取得

技術的取り組み

取り組み内容
On-orbit Servicing軌道上での衛星修理・燃料補給
デザイン・フォー・デミーズ大気圏で完全燃焼する設計
衝突回避システム自動化された軌道調整
SSAネットワーク追跡データの国際共有

経済的取り組み

取り組み内容
デブリ除去基金政府・企業が共同出資
保険への反映持続可能な衛星への保険料割引
ライセンス条件打ち上げ許可にデブリ対策を義務化
カーボンクレジット型デブリ削減の市場メカニズム

ヒント

「宇宙版ESG」

地上のESG(環境・社会・ガバナンス)投資と同様に、宇宙分野でも「宇宙版ESG」の概念が広がりつつあります。持続可能性に配慮した衛星オペレーターへの投資を促す動きが始まっています。


まとめ

本記事では、宇宙産業の地政学と持続可能性について解説しました。

ポイント

  • 米中を中心とした宇宙覇権競争が激化、宇宙は「ハイテク冷戦」の舞台に
  • ASAT兵器の開発が進み、宇宙は「第4の戦場」に
  • 米・中・露・仏・日・印など主要国が宇宙軍を設立
  • スペースデブリは36,000個以上が追跡され、1cmでも衛星に致命的
  • ケスラーシンドロームのリスクが高まり、LEOの一部は「臨界点」に近づく
  • アストロスケールがデブリ除去ビジネスを先導、2024年に世界初のデブリ近接観測成功
  • 宇宙条約は1967年から大きく変わらず、国際ルールの整備が急務
  • Artemis協定に中露は不参加、宇宙秩序の分断が進む

シリーズ総括

本シリーズ「宇宙産業マスター講座」では、全6回にわたって宇宙産業の全体像を解説してきました。

テーマキーポイント
第1回産業全体像100兆円市場、上流・中流・下流
第2回ロケット再利用革命、コスト1/10
第3回通信・測位Starlink、GNSS、みちびき
第4回地球観測精密農業、防災、気候監視
第5回探査・新興月経済、宇宙製造、宇宙旅行
第6回地政学米中競争、デブリ、持続可能性

宇宙産業は、技術革新民間参入コスト低下により、かつてない成長期を迎えています。一方で、地政学的対立デブリ問題という課題も深刻化しています。

宇宙は人類共有の資産です。その持続可能な利用を実現できるかどうかは、私たちの選択にかかっています。


シリーズ目次

  1. 宇宙産業の全体像 - 100兆円市場の構造を読み解く
  2. 軌道とロケット - 再利用技術とコスト革命
  3. 衛星サービス(通信・測位) - Starlinkからみちびきまで
  4. 衛星サービス(地球観測) - 農業・防災・気候監視への応用
  5. 宇宙探査と新興領域 - 月経済・宇宙製造・宇宙旅行
  6. 地政学と持続可能性 - 宇宙の軍事化とデブリ問題(本記事)
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投資とビジネスに関する情報を発信しています。初心者にもわかりやすく、実践的な知識をお届けします。

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