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【レアアースマスター講座 第4回】需要を牽引する産業 - EV・風力発電・半導体・防衛

レアアース需要の40%を占める永久磁石市場を中心に、EV・風力発電・半導体・防衛の各産業における使用実態を詳しく解説。EV1台あたりの使用量からF-35戦闘機まで、投資家が知るべき需要ドライバーの全貌を理解しましょう。

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【レアアースマスター講座 第4回】需要を牽引する産業 - EV・風力発電・半導体・防衛
レアアースマスター講座
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はじめに

前回は、レアアースのサプライチェーンと中国支配の構造を解説しました。精製の90%、磁石製造の92%を中国が支配しており、地政学リスクが最大の懸念であることを学びました。

しかし、このリスクがあるにもかかわらず、世界はレアアースから離れられません。なぜなら、脱炭素社会の実現に不可欠だからです。EV、風力発電、省エネ家電——これらすべてにネオジム磁石が使われています。

第4回となる本記事では、レアアース需要を牽引する4つの産業(EV・風力発電・半導体・防衛)について詳しく解説し、将来の需要予測を示します。


産業別レアアース需要の構成

現在の需要構成(2024年)

レアアース需要の約40%が永久磁石向けです。そしてこの比率は今後さらに拡大します。

産業別レアアース需要構成

用途2024年シェア2030年予測成長率
永久磁石40%55%+38%
触媒20%15%-25%
研磨剤15%10%-33%
ガラス・セラミックス10%8%-20%
蛍光体5%4%-20%
その他10%8%-20%

永久磁石の内訳

永久磁石需要をさらに細分化すると、以下のようになります。

用途2024年2030年予測
EV・HV15%25%
風力発電10%15%
エアコン・家電8%8%
産業用モーター4%4%
HDD・電子機器3%3%

ポイント

脱炭素がレアアース需要を押し上げる

皮肉なことに、環境に優しいとされるEVや風力発電ほど、レアアースを大量に消費します。脱炭素社会の実現は、レアアース需要の構造的な増加を意味します。


EV(電気自動車):最大の成長ドライバー

EVにおけるレアアース使用箇所

EV(電気自動車)は、レアアース需要の最大の成長ドライバーです。

EVにおけるレアアース使用詳細

使用箇所使用量主な元素
駆動モーター1〜2kgNd, Pr, Dy, Tb
パワーステアリング50〜100gNd, Pr
電動コンプレッサー100〜200gNd, Pr
センサー・スピーカー約50gNd

駆動モーターが最重要

EVの心臓部である駆動モーターに、最も多くのレアアースが使用されます。

ネオジム磁石を使用した永久磁石同期モーター(PMSM)は、誘導モーターと比較して以下の優位性があります:

特性永久磁石モーター誘導モーター
効率97%94%
出力密度高い中程度
サイズコンパクト大きい
コスト高い(レアアース)安い
レアアース必要不要

効率と出力密度の優位性から、多くのEVメーカーが永久磁石モーターを採用しています。

車種別レアアース使用量

メーカー車種レアアース使用量
TeslaModel Y約520g
TeslaModel 3約500g
BYDSeal約600g
VWID.4約550g
トヨタbZ4X約580g

ジスプロシウムの重要性

EVモーターは走行中に100〜150℃に達します。この高温環境でネオジム磁石の磁力を維持するためには、ジスプロシウム(Dy)の添加が不可欠です。

元素使用量/台役割
ネオジム(Nd)1〜2kg磁力の主成分
プラセオジム(Pr)200〜400g磁石の安定化
ジスプロシウム(Dy)20〜50g耐熱性向上
テルビウム(Tb)5〜10gさらなる耐熱性

EV市場の成長予測

世界EV販売台数レアアース需要
2024年1,500万台約1.5万トン
2027年2,500万台約2.5万トン
2030年4,000万台約4万トン

2030年までにEV向けレアアース需要は約2.7倍に増加する見込みです。

テスラのレアアースフリー宣言

2023年3月、テスラはInvestor Dayで「次世代駆動ユニットでレアアースを使用しない」と発表しました。

しかし、現時点では以下の課題があります:

  • 性能低下:フェライト磁石はネオジム磁石の1/10の磁力
  • サイズ増大:同等性能を得るにはモーターが大型化
  • 実用化時期:具体的な搭載時期は未発表

注意

レアアースフリーは容易ではない

レアアースフリーモーターの開発は進んでいますが、ネオジム磁石の性能を完全に代替することは困難です。当面、EV向けレアアース需要は増加を続けると予想されます。


風力発電:洋上風力の大型化が牽引

風力タービンにおけるレアアース

風力発電は、EV に次ぐ第2の成長ドライバーです。

風力発電におけるレアアース使用詳細

2種類の発電機

風力タービンの発電機には、大きく2つのタイプがあります。

タイプダイレクトドライブギアドライブ
磁石永久磁石(ネオジム)電磁石
ギアボックス不要必要
効率98%95%
メンテナンス少ない多い
レアアース使用量600kg〜3トン/基なし

ダイレクトドライブ型が主流に

特に洋上風力では、メンテナンスの困難さから、ギアボックス不要のダイレクトドライブ型が主流になりつつあります。

タービン容量ネオジム磁石量設置場所
3MW600kg陸上
8MW1.5トン洋上
12MW2.5トン洋上
15MW(最新)3トン洋上

洋上風力の急成長

世界の風力発電容量は急速に拡大しています。

累積設備容量前年比
2020年743GW-
2024年1,000GW+35%
2030年2,500GW+150%

特に洋上風力は、2024年の75GWから2030年には380GWへと5倍に拡大する見込みです。

風力向けレアアース需要予測

風力向けネオジム需要
2024年約8,000トン
2027年約15,000トン
2030年約25,000トン

半導体・エレクトロニクス

半導体製造におけるレアアース

半導体産業もレアアースの重要な需要家です。

半導体・エレクトロニクスにおける使用

CMP(化学機械研磨)

半導体製造で最も重要なレアアース用途は、CMP(Chemical Mechanical Polishing)プロセスです。

項目内容
用途シリコンウェハーの平坦化
使用元素セリウム(Ce)
形態酸化セリウム(CeO2)スラリー
年間需要約2万トン

ウェハー表面を原子レベルで平坦化するCMPは、最先端半導体製造に不可欠です。

電子機器での使用

製品使用箇所レアアース量
スマートフォンスピーカー、振動モーター数g
PCHDD、ファン、スピーカー20〜30g
HDDスピンドルモーター、VCM10〜20g
エアコンコンプレッサー50〜200g

データセンターの急成長

AI需要の爆発的な成長により、データセンターが急拡大しています。

項目内容
サーバー1台のレアアース50〜100g
世界のデータセンター電力2024年:500TWh
成長率年15〜20%

データセンターでは、冷却ファン、HDD、電源ユニットなどにネオジム磁石が使用されています。


防衛産業:戦略的重要性

最先端兵器とレアアース

防衛産業におけるレアアースの使用は、経済安全保障上の最重要課題です。

防衛産業における使用

主要な防衛装備とレアアース使用量

装備レアアース使用量主な用途
F-35戦闘機約430kg/機エンジン合金、電子システム
誘導ミサイル数kg/発誘導システム、フィン制御
潜水艦数トン/隻ソナー、推進モーター
イージス艦数百kg/隻レーダー、通信システム
戦車数十kg/台射撃管制、通信

F-35戦闘機の例

米国の最新鋭戦闘機F-35には、約430kgのレアアースが使用されています。

使用箇所レアアース元素用途
エンジンNd, Dy, Y耐熱合金、磁石
電子システムNd, Sm, Tb永久磁石
誘導システムSm, Nd精密モーター
ディスプレイY, Eu, Tb蛍光体

各国の懸念

懸念事項対応
米国中国依存で防衛能力に脆弱性DoD主導でサプライチェーン強化
日本防衛装備の安定調達国内備蓄、代替調達
EU戦略的自立の欠如Critical Raw Materials Act

注意

防衛産業の中国依存リスク

レアアースの途絶は、防衛能力の直接的な低下を意味します。米国防総省(DoD)は、この脆弱性を「国家安全保障上の重大なリスク」と位置づけ、サプライチェーンの脱中国依存を急いでいます。


その他の重要用途

触媒

用途使用元素役割
石油精製(FCC触媒)La, Ceクラッキング効率向上
排ガス浄化(三元触媒)CeCO, HC, NOx無害化

医療

用途使用元素役割
MRI造影剤Gd造影効果
PET検出器Luシンチレーター
がん治療Sm放射性医薬品

照明・ディスプレイ

用途使用元素役割
LED蛍光体Y, Ce, Eu白色発光
ディスプレイEu, Tb赤・緑発光

将来の需要予測

総需要の成長

レアアース需要は、2024年の約30万トンから2035年には約70万トンへと2倍以上に増加する見込みです。

将来の需要予測

総需要永久磁石向け
2024年30万トン12万トン
2027年40万トン18万トン
2030年50万トン28万トン
2035年70万トン40万トン

セグメント別成長率(2024-2030年 CAGR)

セグメントCAGR
EV向け磁石18%
風力向け磁石15%
産業用モーター8%
半導体研磨6%
触媒3%

需給バランスの懸念

需要の急増に対し、供給がボトルネックになる可能性があります。

シナリオ想定需給バランス
現状維持新規投資限定的2027年に供給不足
投資加速西側で精製能力増強2030年まで均衡

ポイント

投資家へのインプリケーション

需要の構造的な増加は確実ですが、供給がそれに追いつけるかが焦点です。供給不足が発生すれば、価格は急騰します。サプライチェーンへの投資動向を注視する必要があります。


まとめ

本記事では、レアアース需要を牽引する4つの産業を詳しく解説しました。

ポイント

  • レアアース需要の40%が永久磁石向け、2030年には55%へ拡大
  • EV:1台あたり1〜2kgのネオジム磁石、2030年に需要2.7倍
  • 風力発電:大型洋上タービン1基に最大3トン、需要3倍増
  • 半導体:CMPプロセスにセリウム不可欠、データセンター急成長
  • 防衛:F-35に430kg使用、安全保障上の重大リスク
  • 総需要は2024年30万トン→2035年70万トンへ倍増
  • 供給がボトルネックとなる可能性に注意

次回は「脱中国依存の動き - 日米豪欧の戦略」と題して、各国・地域のレアアース確保戦略を詳しく解説します。


シリーズ目次

  1. レアアースの全体像 - 210億ドル市場の構造を読み解く
  2. レアアースの種類と用途 - 17元素の役割を理解する
  3. サプライチェーンと中国支配 - 地政学リスクの実態
  4. 需要を牽引する産業 - EV・風力発電・半導体・防衛(本記事)
  5. 脱中国依存の動き - 日米豪欧の戦略
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