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【半導体マスター講座 第5回】ビジネスモデル3類型 - IDM・ファブレス・ファウンドリ

半導体企業のビジネスモデルをIDM、ファブレス、ファウンドリの3類型で解説。なぜNVIDIAは工場を持たず、Intelは持つのか。水平分業が主流になった理由と投資への示唆を理解しましょう。

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【半導体マスター講座 第5回】ビジネスモデル3類型 - IDM・ファブレス・ファウンドリ
半導体マスター講座
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はじめに

前回はサプライチェーンの全体像を解説しました。今回は視点を変えて、半導体企業のビジネスモデル に焦点を当てます。

NVIDIAとIntelは同じ半導体企業ですが、そのビジネスモデルは根本的に異なります。NVIDIAは自社工場を持たず設計に特化する「ファブレス」、Intelは設計から製造まで自社で行う「IDM」です。

なぜこのような違いが生まれたのか?どちらのモデルが優れているのか?そして投資家として何を見るべきか?——本記事で解説します。


3つのビジネスモデル

半導体企業のビジネスモデルは、大きく3つに分類されます。

3つのビジネスモデル

モデル定義特徴代表企業
IDM設計から製造まで一貫垂直統合Intel, Samsung, Micron
ファブレス設計のみ、工場なし身軽な経営NVIDIA, AMD, Qualcomm
ファウンドリ製造のみ、受託生産規模の経済TSMC, GlobalFoundries

それぞれを詳しく見ていきましょう。


IDM - 垂直統合モデル

IDMモデル

IDMとは?

IDM(Integrated Device Manufacturer) は、半導体の設計・製造・販売をすべて自社で行う ビジネスモデルです。日本語では「垂直統合型デバイスメーカー」と訳されます。

IDMの構造

┌─────────────────────────────┐
│         【IDM企業】          │
├─────────────────────────────┤
│  設計部門                    │
│  ↓ 設計データ               │
│  自社工場(ファブ)          │
│  ↓ 製造                     │
│  テスト・パッケージング      │
│  ↓                          │
│  販売・マーケティング        │
└─────────────────────────────┘

すべての工程を1社でコントロール できることが特徴です。

IDMのメリット

メリット内容
品質管理設計から製造まで一貫した品質管理が可能
技術の囲い込み製造ノウハウを外部に出さない
設計・製造の最適化自社プロセスに最適化した設計ができる
柔軟な対応製造優先度を自社でコントロール

IDMのデメリット

デメリット内容
巨額の設備投資最先端工場は1棟2兆円以上
固定費負担需要が落ちても工場維持コストは発生
製造プロセス遅れのリスク自社開発が遅れると競争力低下
市場変化への対応組織が大きく動きが遅い

代表的なIDM企業

企業主力製品特徴
IntelCPUPC・サーバー向け、IDM 2.0戦略で変革中
Samsungメモリ、ファウンドリDRAM/NAND世界1位、ファウンドリも展開
MicronメモリDRAM/NAND専業、米国唯一のメモリ大手
Texas Instrumentsアナログ安定収益、高配当で知られる
Infineonパワー半導体車載向け世界1位

注意

Intelの苦境

かつてIDMの代表格だったIntelは、製造プロセスの遅れにより苦戦しています。10nm→7nmの移行で躓き、TSMCに最先端で追い抜かれました。自社製造にこだわったことが、皮肉にも競争力低下を招いた典型例です。


ファブレス - 設計特化モデル

ファブレスモデル

ファブレスとは?

ファブレス(Fabless) は、「Fab(工場)がない」という意味で、設計・開発に特化し、製造を外部に委託する ビジネスモデルです。

ファブレスの構造

┌────────────────┐          ┌────────────────┐
│  ファブレス企業  │          │  ファウンドリ   │
├────────────────┤          ├────────────────┤
│  設計・開発     │  ───→   │  製造          │
│  ソフトウェア   │  設計    │  (TSMC等)    │
│  マーケティング │  データ  │                │
└────────────────┘          └────────────────┘

製造はTSMC等のファウンドリに委託 し、自社は設計とソフトウェアに集中します。

ファブレスのメリット

メリット内容
設備投資不要数兆円の工場建設費が不要
設計に集中イノベーションにリソースを集中
最先端プロセス利用可能TSMCの最先端技術を使える
身軽な経営市場変化に素早く対応
高い利益率固定費が少なく、売上に対する利益率が高い

ファブレスのデメリット

デメリット内容
TSMCへの依存製造キャパを他社に握られる
供給リスクファウンドリの生産能力不足時に影響
製造ノウハウなし自社に製造技術が蓄積されない
価格交渉力ファウンドリの価格設定に従う

代表的なファブレス企業

企業主力製品時価総額(2024年)
NVIDIAAI GPU約3兆ドル(世界トップクラス)
AMDCPU、GPU約2,500億ドル
QualcommモバイルSoC約2,000億ドル
Broadcom通信、カスタムチップ約8,000億ドル
AppleSoC(A/Mシリーズ)約3兆ドル(SoC設計も自社)

ポイント

AI時代の勝者はファブレス

NVIDIAの時価総額は3兆ドルを超え、Intel(約1,500億ドル)の20倍以上です。工場を持たないことで設計とソフトウェア(CUDA)に集中し、AI時代の覇者となりました。ファブレスモデルの成功を象徴する存在です。


ファウンドリ - 受託製造モデル

ファウンドリモデル

ファウンドリとは?

ファウンドリ(Foundry) は、他社が設計した半導体を受託製造する専業メーカー です。自社ブランドの製品は持たず、製造技術に特化します。

ファウンドリの構造

     NVIDIA ─→ ┐
       AMD ─→ │
     Apple ─→ ├→ 【ファウンドリ】 ─→ 製造されたチップ
  Qualcomm ─→ │    (TSMC等)
  Broadcom ─→ ┘

複数の顧客から設計データを受け取り、製造のみを担当します。

ファウンドリのメリット

メリット内容
規模の経済複数顧客の需要を集約し効率化
技術集中製造技術の研究開発に集中投資
顧客分散特定顧客に依存しないリスク分散
安定需要多様な顧客からの継続的な受注

ファウンドリのデメリット

デメリット内容
巨額の設備投資最先端維持に年間数兆円の投資
技術競争常に最先端を維持する必要
地政学リスク特にTSMCは台湾集中リスク
顧客の秘密保持競合顧客の設計を扱う難しさ

ファウンドリ市場シェア

企業シェア(2024年)特徴
TSMC約67%最先端で圧倒的1位
Samsung約8%2位だが大きく離される
GlobalFoundries約6%成熟プロセス特化
UMC約5%成熟プロセス
SMIC約5%中国最大

TSMCが圧倒的な1位 で、特に最先端プロセス(7nm以下)ではシェア90%以上 を握っています。

注意

TSMCへの集中リスク

世界の最先端半導体の約67%がTSMC1社に依存しています。Apple、NVIDIA、AMD、Qualcommなど主要ファブレス企業すべてがTSMCに製造を委託しています。台湾有事の際のリスクは計り知れません。


なぜ水平分業が主流になったのか?

垂直統合 vs 水平分業

歴史的変遷

半導体産業は、かつては垂直統合(IDM)が主流 でした。Intel、IBM、Texas Instrumentsなど、大企業が設計から製造まで自社で行っていました。

しかし1987年、台湾でTSMC が設立されます。これが水平分業の始まりでした。

転換点:1987年TSMCの誕生

年代主流モデル背景
1980年代以前IDM技術も市場も未成熟
1987年TSMC設立ファウンドリモデルの登場
1990年代ファブレス登場Qualcomm、NVIDIAなど
2000年代水平分業拡大製造コスト増大
2010年代〜ファブレス優勢TSMCが最先端を独占

水平分業が主流になった3つの理由

1. 製造コストの爆発的増加

プロセス工場建設費(目安)
28nm約5,000億円
7nm約1兆円
3nm約2兆円以上

最先端工場の建設費は2兆円を超え、1社で負担するのは困難になりました。

2. 専門化による効率向上

  • 設計企業:設計・ソフトウェアに集中
  • 製造企業:製造技術に集中

それぞれが専門分野に特化することで、イノベーションが加速 しました。

3. TSMCの技術的優位性

TSMCは複数顧客の製造を担うことで、規模の経済技術投資の集中 を実現。結果的にIDM各社を上回る製造技術を獲得しました。


IntelのIDM 2.0戦略

かつてのIDMの雄、Intelは現在、大きな変革を進めています。

Intelの課題

  • 製造プロセスの遅れ(10nm→7nmで躓き)
  • データセンター市場でAMDにシェア奪われる
  • AI市場でNVIDIAに大きく後れ

IDM 2.0とは?

IntelのCEOパット・ゲルシンガーが打ち出した新戦略:

要素内容
自社製造継続自社チップは自社工場で製造
外部委託併用一部製品はTSMCに委託
ファウンドリ事業Intel Foundry Services(IFS)で他社の製造を受託

IFS(Intel Foundry Services)

Intelは自社をファウンドリとしても開放し、2030年までに世界2位のファウンドリ を目指しています。

目標内容
技術Intel 18A(2nm相当)で巻き返し
顧客米国政府、Qualcommなどとの協力
投資米国内に数兆円規模の工場建設

ポイント

Intel復活の鍵

Intel 18Aが成功すれば、TSMCに対抗できる可能性があります。また、米国政府のCHIPS法による補助金も追い風です。ただし、実績を積むまでは不透明さが残ります。


企業ポジショニングマップ

企業ポジショニングマップ

設計能力×製造能力でマッピング

製造能力なし製造能力あり
設計能力高ファブレス(NVIDIA、AMD、Qualcomm)IDM(Intel、Samsung、Micron)
設計能力低ファウンドリ(TSMC、GlobalFoundries)

各ポジションの特徴

ポジション企業例投資特性
ファブレスNVIDIA, AMD高成長、高バリュエーション
IDMIntel, Micron設備投資負担大、景気敏感
ファウンドリTSMC安定成長、地政学リスク

投資視点での比較

ビジネスモデル別の投資特性

項目IDMファブレスファウンドリ
成長性
利益率
設備投資
景気敏感度
参入障壁

どのモデルに投資すべきか?

投資スタイルおすすめモデル理由
成長重視ファブレス設備投資不要で利益成長しやすい
安定重視ファウンドリTSMCは独占的地位で安定
バリューIDMIntelなど割安銘柄あり
高配当IDM(アナログ)TIなど安定配当

ポイント

AI時代の勝者

現在のAIブームで最も恩恵を受けているのはファブレスのNVIDIA です。設計とソフトウェア(CUDA)に集中し、製造はTSMCに任せることで、爆発的な成長を実現しました。ファブレスモデルの優位性を示す好例です。


まとめ

本記事では、半導体企業のビジネスモデル3類型を解説しました。

ポイント:

  • IDM:設計から製造まで一貫。品質管理に強いが、設備投資負担大
  • ファブレス:設計特化、工場なし。身軽な経営で高成長を実現
  • ファウンドリ:製造受託専業。TSMCが67%シェアで独走

歴史的変遷:

  • かつてはIDMが主流
  • 製造コスト増大とTSMCの台頭で水平分業が主流に
  • AI時代はファブレス(NVIDIA)が最大の勝者

投資への示唆:

  • 成長重視ならファブレス
  • 安定重視ならファウンドリ(TSMC)
  • バリュー・高配当ならIDM(TI、Intel)

次回は「主要企業徹底解説 - 誰が何を支配しているか」と題して、NVIDIA、AMD、Intel、Qualcomm、TSMC、ASMLなど主要8社を個別に分析します。


シリーズ目次

  1. 半導体とは何か - 1兆ドル市場の全体像
  2. 半導体の種類を理解する - ロジック・メモリ・アナログ・パワー
  3. プロセッサの世界 - CPU・GPU・SoC・FPGA・ASIC
  4. サプライチェーンを読み解く - 設計から製造まで
  5. ビジネスモデル3類型 - IDM・ファブレス・ファウンドリ(本記事)
  6. 主要企業徹底解説 - 誰が何を支配しているか
  7. AI時代の半導体と地政学 - 投資家が知るべきリスク
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