はじめに
前回はサプライチェーンの全体像を解説しました。今回は視点を変えて、半導体企業のビジネスモデル に焦点を当てます。
NVIDIAとIntelは同じ半導体企業ですが、そのビジネスモデルは根本的に異なります。NVIDIAは自社工場を持たず設計に特化する「ファブレス」、Intelは設計から製造まで自社で行う「IDM」です。
なぜこのような違いが生まれたのか?どちらのモデルが優れているのか?そして投資家として何を見るべきか?——本記事で解説します。
3つのビジネスモデル
半導体企業のビジネスモデルは、大きく3つに分類されます。
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| モデル | 定義 | 特徴 | 代表企業 |
|---|---|---|---|
| IDM | 設計から製造まで一貫 | 垂直統合 | Intel, Samsung, Micron |
| ファブレス | 設計のみ、工場なし | 身軽な経営 | NVIDIA, AMD, Qualcomm |
| ファウンドリ | 製造のみ、受託生産 | 規模の経済 | TSMC, GlobalFoundries |
それぞれを詳しく見ていきましょう。
IDM - 垂直統合モデル
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IDMとは?
IDM(Integrated Device Manufacturer) は、半導体の設計・製造・販売をすべて自社で行う ビジネスモデルです。日本語では「垂直統合型デバイスメーカー」と訳されます。
IDMの構造
┌─────────────────────────────┐
│ 【IDM企業】 │
├─────────────────────────────┤
│ 設計部門 │
│ ↓ 設計データ │
│ 自社工場(ファブ) │
│ ↓ 製造 │
│ テスト・パッケージング │
│ ↓ │
│ 販売・マーケティング │
└─────────────────────────────┘
すべての工程を1社でコントロール できることが特徴です。
IDMのメリット
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 品質管理 | 設計から製造まで一貫した品質管理が可能 |
| 技術の囲い込み | 製造ノウハウを外部に出さない |
| 設計・製造の最適化 | 自社プロセスに最適化した設計ができる |
| 柔軟な対応 | 製造優先度を自社でコントロール |
IDMのデメリット
| デメリット | 内容 |
|---|---|
| 巨額の設備投資 | 最先端工場は1棟2兆円以上 |
| 固定費負担 | 需要が落ちても工場維持コストは発生 |
| 製造プロセス遅れのリスク | 自社開発が遅れると競争力低下 |
| 市場変化への対応 | 組織が大きく動きが遅い |
代表的なIDM企業
| 企業 | 主力製品 | 特徴 |
|---|---|---|
| Intel | CPU | PC・サーバー向け、IDM 2.0戦略で変革中 |
| Samsung | メモリ、ファウンドリ | DRAM/NAND世界1位、ファウンドリも展開 |
| Micron | メモリ | DRAM/NAND専業、米国唯一のメモリ大手 |
| Texas Instruments | アナログ | 安定収益、高配当で知られる |
| Infineon | パワー半導体 | 車載向け世界1位 |
注意
かつてIDMの代表格だったIntelは、製造プロセスの遅れにより苦戦しています。10nm→7nmの移行で躓き、TSMCに最先端で追い抜かれました。自社製造にこだわったことが、皮肉にも競争力低下を招いた典型例です。
ファブレス - 設計特化モデル
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ファブレスとは?
ファブレス(Fabless) は、「Fab(工場)がない」という意味で、設計・開発に特化し、製造を外部に委託する ビジネスモデルです。
ファブレスの構造
┌────────────────┐ ┌────────────────┐
│ ファブレス企業 │ │ ファウンドリ │
├────────────────┤ ├────────────────┤
│ 設計・開発 │ ───→ │ 製造 │
│ ソフトウェア │ 設計 │ (TSMC等) │
│ マーケティング │ データ │ │
└────────────────┘ └────────────────┘
製造はTSMC等のファウンドリに委託 し、自社は設計とソフトウェアに集中します。
ファブレスのメリット
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 設備投資不要 | 数兆円の工場建設費が不要 |
| 設計に集中 | イノベーションにリソースを集中 |
| 最先端プロセス利用可能 | TSMCの最先端技術を使える |
| 身軽な経営 | 市場変化に素早く対応 |
| 高い利益率 | 固定費が少なく、売上に対する利益率が高い |
ファブレスのデメリット
| デメリット | 内容 |
|---|---|
| TSMCへの依存 | 製造キャパを他社に握られる |
| 供給リスク | ファウンドリの生産能力不足時に影響 |
| 製造ノウハウなし | 自社に製造技術が蓄積されない |
| 価格交渉力 | ファウンドリの価格設定に従う |
代表的なファブレス企業
| 企業 | 主力製品 | 時価総額(2024年) |
|---|---|---|
| NVIDIA | AI GPU | 約3兆ドル(世界トップクラス) |
| AMD | CPU、GPU | 約2,500億ドル |
| Qualcomm | モバイルSoC | 約2,000億ドル |
| Broadcom | 通信、カスタムチップ | 約8,000億ドル |
| Apple | SoC(A/Mシリーズ) | 約3兆ドル(SoC設計も自社) |
ポイント
NVIDIAの時価総額は3兆ドルを超え、Intel(約1,500億ドル)の20倍以上です。工場を持たないことで設計とソフトウェア(CUDA)に集中し、AI時代の覇者となりました。ファブレスモデルの成功を象徴する存在です。
ファウンドリ - 受託製造モデル
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ファウンドリとは?
ファウンドリ(Foundry) は、他社が設計した半導体を受託製造する専業メーカー です。自社ブランドの製品は持たず、製造技術に特化します。
ファウンドリの構造
NVIDIA ─→ ┐
AMD ─→ │
Apple ─→ ├→ 【ファウンドリ】 ─→ 製造されたチップ
Qualcomm ─→ │ (TSMC等)
Broadcom ─→ ┘
複数の顧客から設計データを受け取り、製造のみを担当します。
ファウンドリのメリット
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 規模の経済 | 複数顧客の需要を集約し効率化 |
| 技術集中 | 製造技術の研究開発に集中投資 |
| 顧客分散 | 特定顧客に依存しないリスク分散 |
| 安定需要 | 多様な顧客からの継続的な受注 |
ファウンドリのデメリット
| デメリット | 内容 |
|---|---|
| 巨額の設備投資 | 最先端維持に年間数兆円の投資 |
| 技術競争 | 常に最先端を維持する必要 |
| 地政学リスク | 特にTSMCは台湾集中リスク |
| 顧客の秘密保持 | 競合顧客の設計を扱う難しさ |
ファウンドリ市場シェア
| 企業 | シェア(2024年) | 特徴 |
|---|---|---|
| TSMC | 約67% | 最先端で圧倒的1位 |
| Samsung | 約8% | 2位だが大きく離される |
| GlobalFoundries | 約6% | 成熟プロセス特化 |
| UMC | 約5% | 成熟プロセス |
| SMIC | 約5% | 中国最大 |
TSMCが圧倒的な1位 で、特に最先端プロセス(7nm以下)ではシェア90%以上 を握っています。
注意
世界の最先端半導体の約67%がTSMC1社に依存しています。Apple、NVIDIA、AMD、Qualcommなど主要ファブレス企業すべてがTSMCに製造を委託しています。台湾有事の際のリスクは計り知れません。
なぜ水平分業が主流になったのか?
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歴史的変遷
半導体産業は、かつては垂直統合(IDM)が主流 でした。Intel、IBM、Texas Instrumentsなど、大企業が設計から製造まで自社で行っていました。
しかし1987年、台湾でTSMC が設立されます。これが水平分業の始まりでした。
転換点:1987年TSMCの誕生
| 年代 | 主流モデル | 背景 |
|---|---|---|
| 1980年代以前 | IDM | 技術も市場も未成熟 |
| 1987年 | TSMC設立 | ファウンドリモデルの登場 |
| 1990年代 | ファブレス登場 | Qualcomm、NVIDIAなど |
| 2000年代 | 水平分業拡大 | 製造コスト増大 |
| 2010年代〜 | ファブレス優勢 | TSMCが最先端を独占 |
水平分業が主流になった3つの理由
1. 製造コストの爆発的増加
| プロセス | 工場建設費(目安) |
|---|---|
| 28nm | 約5,000億円 |
| 7nm | 約1兆円 |
| 3nm | 約2兆円以上 |
最先端工場の建設費は2兆円を超え、1社で負担するのは困難になりました。
2. 専門化による効率向上
- 設計企業:設計・ソフトウェアに集中
- 製造企業:製造技術に集中
それぞれが専門分野に特化することで、イノベーションが加速 しました。
3. TSMCの技術的優位性
TSMCは複数顧客の製造を担うことで、規模の経済 と技術投資の集中 を実現。結果的にIDM各社を上回る製造技術を獲得しました。
IntelのIDM 2.0戦略
かつてのIDMの雄、Intelは現在、大きな変革を進めています。
Intelの課題
- 製造プロセスの遅れ(10nm→7nmで躓き)
- データセンター市場でAMDにシェア奪われる
- AI市場でNVIDIAに大きく後れ
IDM 2.0とは?
IntelのCEOパット・ゲルシンガーが打ち出した新戦略:
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 自社製造継続 | 自社チップは自社工場で製造 |
| 外部委託併用 | 一部製品はTSMCに委託 |
| ファウンドリ事業 | Intel Foundry Services(IFS)で他社の製造を受託 |
IFS(Intel Foundry Services)
Intelは自社をファウンドリとしても開放し、2030年までに世界2位のファウンドリ を目指しています。
| 目標 | 内容 |
|---|---|
| 技術 | Intel 18A(2nm相当)で巻き返し |
| 顧客 | 米国政府、Qualcommなどとの協力 |
| 投資 | 米国内に数兆円規模の工場建設 |
ポイント
Intel 18Aが成功すれば、TSMCに対抗できる可能性があります。また、米国政府のCHIPS法による補助金も追い風です。ただし、実績を積むまでは不透明さが残ります。
企業ポジショニングマップ
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設計能力×製造能力でマッピング
| 製造能力なし | 製造能力あり | |
|---|---|---|
| 設計能力高 | ファブレス(NVIDIA、AMD、Qualcomm) | IDM(Intel、Samsung、Micron) |
| 設計能力低 | ー | ファウンドリ(TSMC、GlobalFoundries) |
各ポジションの特徴
| ポジション | 企業例 | 投資特性 |
|---|---|---|
| ファブレス | NVIDIA, AMD | 高成長、高バリュエーション |
| IDM | Intel, Micron | 設備投資負担大、景気敏感 |
| ファウンドリ | TSMC | 安定成長、地政学リスク |
投資視点での比較
ビジネスモデル別の投資特性
| 項目 | IDM | ファブレス | ファウンドリ |
|---|---|---|---|
| 成長性 | △ | ◎ | ○ |
| 利益率 | △ | ◎ | ○ |
| 設備投資 | 大 | 小 | 大 |
| 景気敏感度 | 高 | 中 | 中 |
| 参入障壁 | 高 | 中 | 高 |
どのモデルに投資すべきか?
| 投資スタイル | おすすめモデル | 理由 |
|---|---|---|
| 成長重視 | ファブレス | 設備投資不要で利益成長しやすい |
| 安定重視 | ファウンドリ | TSMCは独占的地位で安定 |
| バリュー | IDM | Intelなど割安銘柄あり |
| 高配当 | IDM(アナログ) | TIなど安定配当 |
ポイント
現在のAIブームで最も恩恵を受けているのはファブレスのNVIDIA です。設計とソフトウェア(CUDA)に集中し、製造はTSMCに任せることで、爆発的な成長を実現しました。ファブレスモデルの優位性を示す好例です。
まとめ
本記事では、半導体企業のビジネスモデル3類型を解説しました。
ポイント:
- IDM:設計から製造まで一貫。品質管理に強いが、設備投資負担大
- ファブレス:設計特化、工場なし。身軽な経営で高成長を実現
- ファウンドリ:製造受託専業。TSMCが67%シェアで独走
歴史的変遷:
- かつてはIDMが主流
- 製造コスト増大とTSMCの台頭で水平分業が主流に
- AI時代はファブレス(NVIDIA)が最大の勝者
投資への示唆:
- 成長重視ならファブレス
- 安定重視ならファウンドリ(TSMC)
- バリュー・高配当ならIDM(TI、Intel)
次回は「主要企業徹底解説 - 誰が何を支配しているか」と題して、NVIDIA、AMD、Intel、Qualcomm、TSMC、ASMLなど主要8社を個別に分析します。
シリーズ目次
- 半導体とは何か - 1兆ドル市場の全体像
- 半導体の種類を理解する - ロジック・メモリ・アナログ・パワー
- プロセッサの世界 - CPU・GPU・SoC・FPGA・ASIC
- サプライチェーンを読み解く - 設計から製造まで
- ビジネスモデル3類型 - IDM・ファブレス・ファウンドリ(本記事)
- 主要企業徹底解説 - 誰が何を支配しているか
- AI時代の半導体と地政学 - 投資家が知るべきリスク





