はじめに
「半導体」という言葉を聞いたことがない人はいないでしょう。しかし、「半導体とは何か?」と聞かれて、明確に答えられる人は少ないかもしれません。
スマートフォン、パソコン、自動車、エアコン、医療機器——私たちの生活を支えるあらゆる電子機器には、半導体が使われています。そして今、AI(人工知能)の爆発的な普及 により、半導体の重要性はかつてないほど高まっています。
この「半導体マスター講座」では、全7回にわたって半導体業界を体系的に解説します。第1回となる本記事では、半導体の基礎と市場の全体像を理解しましょう。
半導体とは何か?
導体・絶縁体・半導体の違い
物質は電気の流れやすさによって、大きく3つに分類されます。
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| 分類 | 特徴 | 例 |
|---|---|---|
| 導体 | 電気をよく通す | 銅、金、銀 |
| 絶縁体 | 電気を通さない | ゴム、ガラス、木 |
| 半導体 | 条件次第で電気を通す | シリコン、ゲルマニウム |
半導体の最大の特徴は「制御できる」こと です。温度や電圧などの条件によって、電気を流したり止めたりできます。この特性を利用して、コンピュータの「0」と「1」を表現し、複雑な演算処理を実現しています。
なぜシリコンが使われるのか?
半導体の材料として最も広く使われているのがシリコン(ケイ素) です。その理由は:
- 地球上に豊富に存在(地殻の約28%を占める)
- 純度を高めやすい(99.999999999%まで精製可能)
- 安定した特性(温度変化に強い)
シリコンウエハーと呼ばれる円盤状の基板に、微細な回路を形成することで、CPUやメモリなどの半導体チップが作られます。
半導体はどこで使われているか?
半導体は、私たちの身の回りのあらゆる電子機器に搭載されています。
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| 製品 | 搭載される半導体 | 役割 |
|---|---|---|
| スマートフォン | SoC、メモリ | 処理・記憶 |
| パソコン | CPU、GPU、SSD | 演算・描画・保存 |
| 自動車 | パワー半導体、センサー | 電力制御・検知 |
| 家電 | マイコン、センサー | 制御・検知 |
| データセンター | サーバーCPU、AI GPU | 大規模演算 |
| 医療機器 | センサー、制御チップ | 計測・制御 |
特筆すべきは、現代の自動車には100個以上の半導体 が搭載されていることです。電気自動車(EV)では、その数はさらに増えます。
ポイント
かつて半導体は、あらゆる産業に必要な基礎素材として「産業のコメ」と呼ばれていました。しかし今や、AIやIoTの中核を担う存在として「産業の脳」へと進化しています。
市場規模:2030年に1兆ドルへ
半導体市場は、2024年時点で約6,000億ドル(約90兆円) 規模に達しています。そして2030年には1兆ドル(約150兆円) を超えると予測されています。
市場規模の推移
| 年 | 市場規模 | 成長率 |
|---|---|---|
| 2021 | 5,560億ドル | +26.4% |
| 2022 | 5,740億ドル | +3.2% |
| 2023 | 5,270億ドル | -8.2% |
| 2024 | 6,110億ドル(予測) | +16.0% |
| 2025 | 6,970億ドル(予測) | +14.1% |
| 2030 | 1兆ドル(予測) | - |
2023年は一時的に市場が縮小しましたが、これは2021〜2022年のコロナ特需の反動と在庫調整によるものです。2024年以降はAI需要を中心に力強い回復 が見込まれています。
5大成長ドライバー
半導体市場の成長を牽引する5つの要因を見ていきましょう。
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1. AI / 生成AI(最重要)
2023年のChatGPTブーム以降、生成AIの需要が爆発的に拡大 しています。
- GPU(画像処理半導体):AIの学習・推論に不可欠
- HBM(高帯域幅メモリ):GPUの性能を引き出す超高速メモリ
NVIDIAのAI向けGPUは需要に供給が追いつかず、データセンター向け売上は前年比3倍以上に急増しています。
2. EV / 電動化
電気自動車(EV)の普及により、パワー半導体 の需要が急増しています。
- 1台のEVには約50個のパワー半導体 が搭載
- 電力変換効率の向上が航続距離に直結
- 自動運転の進化で車載SoCの需要も拡大
3. データセンター
クラウドサービスとビッグデータの成長により、データセンターへの投資が続いています。
- サーバー向け高性能CPU
- AI処理用GPU
- 大容量メモリ(DRAM、SSD)
4. 5G / 通信
5G通信の普及により、通信関連の半導体需要が増加しています。
- RF半導体:高周波信号の送受信
- ベースバンドチップ:通信の制御
5. IoT
あらゆるモノがインターネットにつながる時代、IoTデバイス向けの半導体需要も拡大しています。
- MCU(マイコン):小型機器の制御
- センサー:温度、湿度、動きの検知
- 低消費電力チップ:バッテリー駆動デバイス向け
半導体の微細化とムーアの法則
半導体産業の発展を支えてきたのが、微細化(プロセスノードの縮小)です。
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プロセスノードとは?
プロセスノード(例:7nm、3nm)は、半導体チップ上に形成できる回路の細かさを示す指標です。数字が小さいほど:
- より多くのトランジスタを搭載できる → 高性能
- 電子の移動距離が短くなる → 省電力
ムーアの法則
インテル創業者のゴードン・ムーアが1965年に提唱した法則:
「半導体の集積密度は約2年で2倍になる」
この法則は約60年にわたって半導体産業の進歩を支えてきました。近年は物理的限界に近づいていると言われますが、新しい技術(3D積層、新材料など)により、性能向上は続いています。
最先端プロセスの現状
| 年 | プロセス | 特徴 |
|---|---|---|
| 2020 | 7nm | EUV露光本格導入 |
| 2023 | 3nm | 現在の最先端 |
| 2025 | 2nm | 次世代(量産開始予定) |
最先端の3nmプロセスでは、髪の毛の太さ(約80,000nm)の約27,000分の1 という極めて微細な回路が形成されています。
なぜ今、半導体を理解すべきか?
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1. 投資機会の拡大
半導体関連株は、AI時代の成長を取り込める有望な投資先です。
- NVIDIA:AI向けGPUで独走
- AMD:データセンター向けCPUで躍進
- TSMC:最先端製造を独占
2. 地政学的重要性
米中対立の中心にあるのが半導体です。
- 米国:対中輸出規制、CHIPS法で国内製造強化
- 中国:内製化を推進
- 台湾:TSMC(世界シェア67%)を抱える戦略的要衝
3. 社会インフラとしての重要性
AIの発展、EVの普及、デジタル化の進展——すべての基盤に半導体があります。半導体を理解することは、未来の社会を理解すること につながります。
まとめ
本記事では、半導体の基礎と市場の全体像を解説しました。
ポイント:
- 半導体は「条件次第で電気を通す」特性を持ち、電子機器の制御に不可欠
- 市場規模は2024年に約6,000億ドル、2030年には1兆ドルへ
- 5大成長ドライバー:AI、EV、データセンター、5G、IoT
- 微細化により性能向上と省電力化が進む
- 投資、地政学、社会インフラの観点から重要性が増している
次回は「半導体の種類を理解する - ロジック・メモリ・アナログ・パワー」と題して、半導体の4大カテゴリについて詳しく解説します。
シリーズ目次
- 半導体とは何か - 1兆ドル市場の全体像(本記事)
- 半導体の種類を理解する - ロジック・メモリ・アナログ・パワー
- プロセッサの世界 - CPU・GPU・SoC・FPGA・ASIC
- サプライチェーンを読み解く - 設計から製造まで
- ビジネスモデル3類型 - IDM・ファブレス・ファウンドリ
- 主要企業徹底解説 - 誰が何を支配しているか
- AI時代の半導体と地政学 - 投資家が知るべきリスク





