Wallstreet NoteWallstreet Note

【SEC開示を読み解く 第5回】DEF 14A・S-1・20-F - その他の重要開示

役員報酬の読み方(DEF 14A)、IPO目論見書(S-1)の分析方法、外国企業の開示(20-F/6-K)を解説。SECシリーズ最終回として、全体像を総括します。

12分で読めます
【SEC開示を読み解く 第5回】DEF 14A・S-1・20-F - その他の重要開示
SEC開示マスター講座
5 / 5
前の記事
4
次の記事
シリーズ完結
5回の記事一覧

この記事で学ぶこと

  • DEF 14A(委任状説明書)の構成と読み方
  • 役員報酬の分析方法
  • Say-on-Pay(役員報酬への株主投票)の仕組み
  • S-1(IPO目論見書)の構成と注目ポイント
  • 20-F/6-K(外国企業の開示)
  • SECシリーズ全体の総括

DEF 14A:委任状説明書とは

DEF 14A(Definitive Proxy Statement)は、株主総会の前に株主に送付される委任状説明書です。株主が議決権を行使するために必要な情報が含まれています。

DEF 14Aの全体像

DEF 14Aの4つの主要セクション

1. 役員報酬(Executive Compensation)

CEO、CFOなど経営幹部の報酬詳細が開示されます。

  • 基本給、ボーナス
  • ストックオプション
  • 株式報酬
  • 退職金、特典

2. 取締役選任(Director Election)

取締役候補者の情報が記載されます。

  • 候補者の経歴
  • 独立性の情報
  • 他社の取締役兼任状況

3. Say-on-Pay

役員報酬に対する株主の諮問投票です。

  • 報酬計画への賛否
  • 非拘束的だが重要なシグナル

4. 株主提案(Shareholder Proposals)

株主から提出された議案が掲載されます。

  • ESG関連の提案
  • 定款変更の提案
  • ガバナンス改善の要求

ヒント

DEF 14Aは株主総会の約2〜4週間前に公開されます。株主総会シーズン(4〜6月)に注目しましょう。


役員報酬の読み方

DEF 14Aで最も注目されるのが役員報酬セクションです。CEOの報酬がどのように構成されているかを理解しましょう。

役員報酬の読み方

CEO報酬の構成例

項目内容金額例
基本給(Base Salary)固定部分$1.5M
ボーナス(Bonus)業績連動$3M
ストックアワード(Stock Awards)株式報酬$10M
オプション(Option Awards)ストックオプション$5M
その他(Other Compensation)退職金、特典等$500K
合計約$20M

報酬の確認方法

DEF 14AのSummary Compensation Tableで、過去3年分の報酬が一覧で確認できます。

注目すべきポイント

  1. 報酬の総額:業界平均と比較して適正か
  2. 業績連動の割合:固定給vs変動給のバランス
  3. 株式報酬の比率:長期インセンティブが設計されているか
  4. 前年比の変化:大幅な増加はないか

重要

CEOの報酬が業績と連動していない場合、株主の利益と経営陣の利益が一致していない可能性があります。


Say-on-Pay:役員報酬への株主投票

Say-on-Payは、2010年のドッド・フランク法で義務化された役員報酬に対する株主の諮問投票です。

Say-on-Pay投票の仕組み

Say-on-Payの流れ

Step 1:報酬委員会

取締役会の報酬委員会が役員報酬を決定します。

Step 2:DEF 14Aで開示

報酬の詳細がDEF 14Aで公開されます。

Step 3:株主投票

株主総会で株主が投票します。

  • For(賛成)
  • Against(反対)
  • Abstain(棄権)

Step 4:結果

  • 承認:報酬計画は維持
  • 否決:見直しのプレッシャー

Say-on-Payの重要性

Say-on-Payは非拘束的(advisory)ですが、否決は経営陣への強いメッセージとなります。

  • 否決率が高い場合:報酬委員会は見直しを迫られる
  • 機関投資家の注目:議決権行使助言会社(ISS等)が推奨を出す
  • 株価への影響:ガバナンス問題として認識される可能性

注意

Say-on-Payの否決率が高い企業は、ガバナンスに問題がある可能性があります。投資判断の参考にしましょう。


S-1:IPO目論見書

S-1は、企業が新規株式公開(IPO)を行う際にSECに提出する登録届出書です。「会社の履歴書」とも呼ばれ、企業の全体像を把握できます。

S-1の構成

S-1の7つの主要セクション

1. Prospectus Summary(事業の概要)

  • 投資のハイライト
  • 事業の概要
  • オファリングの条件

2. Risk Factors(リスク要因)★重要

  • 投資家必読セクション
  • 事業・財務・規制リスク
  • IPO特有のリスク

3. Use of Proceeds(資金使途)

  • 調達資金の使い道
  • 研究開発、マーケティング、債務返済など

4. Business(事業内容)★重要

  • ビジネスモデルの詳細
  • 競争優位性
  • 市場機会

5. Management(経営陣)

  • 経営陣の経歴
  • 持株比率
  • 報酬情報

6. Financial Statements(財務諸表)★重要

  • 過去の業績
  • 監査済み財務諸表
  • 財務状況の分析

7. Underwriting(引受情報)

  • 引受証券会社
  • 手数料
  • ロックアップ期間

IPOプロセスとS-1の位置づけ

S-1はIPOプロセスの中で重要なマイルストーンです。全体の流れを理解しましょう。

IPOプロセス

IPOの5つのフェーズ

Phase 1:準備期間

  • 証券会社選定
  • デューデリジェンス
  • 期間:数ヶ月

Phase 2:S-1提出

  • Draft S-1(非公開):EGC(新興成長企業)は非公開で提出可能
  • S-1(公開):SECレビュー開始
  • SECからのコメントに対応

Phase 3:ロードショー

  • 機関投資家へのプレゼン
  • 需要調査(ブックビルディング)
  • 全米・海外を巡回

Phase 4:価格決定

  • 公開価格の決定
  • 424B4提出(最終目論見書)

Phase 5:上場

  • NYSE/NASDAQで取引開始
  • 上場初日の値動きに注目

ヒント

S-1は「会社の履歴書」です。IPO前に必ず確認しましょう。特にRisk Factors、Business、Financial Statementsは必読です。


20-F vs 10-K:外国企業と米国企業の比較

米国市場に上場している外国企業は、10-Kではなく20-Fを提出します。

10-K vs 20-F

比較表

項目米国企業(10-K)外国企業(20-F)
Apple, Microsoftトヨタ, アリババ
会計基準US GAAPIFRS or US GAAP
提出期限60〜90日4ヶ月以内
内部統制SOX法準拠一部免除あり

内容はほぼ同等

20-Fの内容は10-Kとほぼ同等の情報を含んでいます。

  • 事業内容
  • 財務諸表
  • リスク要因
  • MD&A

重要

ADR(米国預託証券)に投資する場合は、10-Kではなく20-Fで企業分析を行います。


外国企業の開示:20-F / 6-K

外国企業は2つのフォームでSECに報告します。

外国企業の開示

20-F(年次報告書)

項目内容
頻度年1回
内容10-K相当
含まれる情報事業内容、財務諸表、リスク要因、MD&A

6-K(臨時報告書)

項目内容
頻度随時
内容8-K相当
含まれる情報決算発表、重大イベント、プレスリリース

代表的なADR企業

企業ティッカー
トヨタTM日本
ソニーSONY日本
アリババBABA中国
TSMCTSM台湾

追加の資金調達フォーム

S-1以外にも、資金調達に関連するフォームがあります。日常的には不要ですが、特定の状況で参照します。

追加の資金調達フォーム

S-3:簡易登録届出書

項目内容
対象上場企業(一定要件満たす)
用途増資、転換社債発行
特徴S-1より簡易、迅速

すでに10-K等で情報開示している企業は、S-3で追加の株式発行が可能です。

424B:最終目論見書

項目内容
対象S-1/S-3提出企業
用途価格決定後の最終情報
種類424B1〜424B7

S-1提出後、価格が決定したら424Bで最終的な条件が開示されます。

S-4:M&A関連届出書

項目内容
対象株式交換を伴うM&A
用途合併・買収時の株式発行
特徴被買収企業の情報も含む

株式交換でM&Aを行う場合、S-4で両社の情報が開示されます。

ヒント

これらは特定の状況で参照するフォームです。日常的には10-K/10-Qを優先しましょう。


SEC開示シリーズの全体マップ

全5回のシリーズで学んだSEC開示の全体像を振り返りましょう。

SEC開示シリーズの全体マップ

5つのカテゴリと重要度

1. 企業の定期開示(最重要★★★)

  • 10-K, 10-Q, 8-K
  • 第2回で解説
  • 企業分析の基本中の基本

2. 機関投資家(重要★★)

  • 13F, 13D, 13G
  • 第3回で解説
  • スマートマネーの追跡

3. インサイダー(重要★★)

  • Form 3, 4, 5
  • 第4回で解説
  • 役員の売買シグナル

4. 株主総会・報酬(参考★)

  • DEF 14A
  • 第5回で解説
  • ガバナンスの確認

5. IPO・外国企業(状況に応じて★)

  • S-1, 20-F, 6-K
  • 第5回で解説
  • 特定の状況で参照

基本原則

基本は10-K/10-Q。必要に応じて他のフォームを参照
  • まず10-K/10-Qで企業の全体像を把握
  • 機関投資家の動きは13Fで確認
  • インサイダーの売買はForm 4で監視
  • 必要に応じてDEF 14A、S-1等を参照

実践:EDGARで様々なフォームを探す

実際にEDGARで様々なフォームを検索してみましょう。

DEF 14Aを探す

  1. SEC EDGARにアクセス
  2. 企業名またはティッカーで検索
  3. 「DEF 14A」でフィルター
  4. 株主総会シーズン(4〜6月)の開示を確認

S-1を探す

  1. EDGARにアクセス
  2. 「IPO」や「S-1」で検索
  3. または、話題のIPO企業名で検索
  4. Amendment(S-1/A)も確認

20-Fを探す

  1. EDGARにアクセス
  2. 外国企業名(例:Toyota)で検索
  3. 「20-F」でフィルター
  4. 年次報告書を確認

シリーズ総括

全5回で学んだこと

テーマ主要フォーム得られる情報
1SEC・EDGARの基本-全体像の把握
2企業の定期開示10-K, 10-Q, 8-K財務状況、事業リスク
3機関投資家13F, 13D, 13Gスマートマネーの動き
4インサイダーForm 3, 4, 5役員の売買シグナル
5その他の重要開示DEF 14A, S-1, 20-F報酬、IPO、外国企業

投資家としての活用法

  1. まず10-K/10-Qで企業を理解:財務諸表、リスク要因、MD&Aを読む
  2. 13Fでスマートマネーを追跡:著名投資家のポートフォリオを参考に
  3. Form 4でインサイダーを監視:クラスター買いは強気シグナル
  4. DEF 14Aでガバナンスを確認:役員報酬、Say-on-Payをチェック
  5. IPO時はS-1を必読:投資前に必ず目論見書を確認

最後に

SEC開示はすべて無料で誰でもアクセスできます。ウォール街のプロと同じ情報を手に入れ、自分の投資判断に活かしましょう。


SEC開示を読み解くシリーズ


まとめ

この記事のポイント

  • DEF 14Aは株主総会前に公開される委任状説明書
  • 役員報酬はSummary Compensation Tableで確認
  • Say-on-Payは非拘束的だが、否決は強いメッセージ
  • S-1はIPO目論見書。Risk Factors、Business、Financial Statementsが必読
  • 20-Fは外国企業の年次報告書(10-K相当)
  • 基本は10-K/10-Q。必要に応じて他のフォームを参照

シリーズを通じてのメッセージ

SEC開示を読む力は、米国株投資家の必須スキルです。最初は難しく感じるかもしれませんが、繰り返し読むことで徐々に慣れていきます。

まずは興味のある企業の10-Kを開いてみてください。そこから、あなたの投資の旅が始まります。

この記事が役に立ったらシェアしてください
Your Name
著者

Your Name

投資とビジネスに関する情報を発信しています。初心者にもわかりやすく、実践的な知識をお届けします。

@yourhandle
SEC開示マスター講座
5 / 5
前の記事
4
次の記事
シリーズ完結
5回の記事一覧