この記事で学ぶこと
- DEF 14A(委任状説明書)の構成と読み方
- 役員報酬の分析方法
- Say-on-Pay(役員報酬への株主投票)の仕組み
- S-1(IPO目論見書)の構成と注目ポイント
- 20-F/6-K(外国企業の開示)
- SECシリーズ全体の総括
DEF 14A:委任状説明書とは
DEF 14A(Definitive Proxy Statement)は、株主総会の前に株主に送付される委任状説明書です。株主が議決権を行使するために必要な情報が含まれています。

DEF 14Aの4つの主要セクション
1. 役員報酬(Executive Compensation)
CEO、CFOなど経営幹部の報酬詳細が開示されます。
- 基本給、ボーナス
- ストックオプション
- 株式報酬
- 退職金、特典
2. 取締役選任(Director Election)
取締役候補者の情報が記載されます。
- 候補者の経歴
- 独立性の情報
- 他社の取締役兼任状況
3. Say-on-Pay
役員報酬に対する株主の諮問投票です。
- 報酬計画への賛否
- 非拘束的だが重要なシグナル
4. 株主提案(Shareholder Proposals)
株主から提出された議案が掲載されます。
- ESG関連の提案
- 定款変更の提案
- ガバナンス改善の要求
ヒント
DEF 14Aは株主総会の約2〜4週間前に公開されます。株主総会シーズン(4〜6月)に注目しましょう。
役員報酬の読み方
DEF 14Aで最も注目されるのが役員報酬セクションです。CEOの報酬がどのように構成されているかを理解しましょう。

CEO報酬の構成例
| 項目 | 内容 | 金額例 |
|---|---|---|
| 基本給(Base Salary) | 固定部分 | $1.5M |
| ボーナス(Bonus) | 業績連動 | $3M |
| ストックアワード(Stock Awards) | 株式報酬 | $10M |
| オプション(Option Awards) | ストックオプション | $5M |
| その他(Other Compensation) | 退職金、特典等 | $500K |
| 合計 | 約$20M |
報酬の確認方法
DEF 14AのSummary Compensation Tableで、過去3年分の報酬が一覧で確認できます。
注目すべきポイント
- 報酬の総額:業界平均と比較して適正か
- 業績連動の割合:固定給vs変動給のバランス
- 株式報酬の比率:長期インセンティブが設計されているか
- 前年比の変化:大幅な増加はないか
重要
CEOの報酬が業績と連動していない場合、株主の利益と経営陣の利益が一致していない可能性があります。
Say-on-Pay:役員報酬への株主投票
Say-on-Payは、2010年のドッド・フランク法で義務化された役員報酬に対する株主の諮問投票です。

Say-on-Payの流れ
Step 1:報酬委員会
取締役会の報酬委員会が役員報酬を決定します。
Step 2:DEF 14Aで開示
報酬の詳細がDEF 14Aで公開されます。
Step 3:株主投票
株主総会で株主が投票します。
- For(賛成)
- Against(反対)
- Abstain(棄権)
Step 4:結果
- 承認:報酬計画は維持
- 否決:見直しのプレッシャー
Say-on-Payの重要性
Say-on-Payは非拘束的(advisory)ですが、否決は経営陣への強いメッセージとなります。
- 否決率が高い場合:報酬委員会は見直しを迫られる
- 機関投資家の注目:議決権行使助言会社(ISS等)が推奨を出す
- 株価への影響:ガバナンス問題として認識される可能性
注意
Say-on-Payの否決率が高い企業は、ガバナンスに問題がある可能性があります。投資判断の参考にしましょう。
S-1:IPO目論見書
S-1は、企業が新規株式公開(IPO)を行う際にSECに提出する登録届出書です。「会社の履歴書」とも呼ばれ、企業の全体像を把握できます。

S-1の7つの主要セクション
1. Prospectus Summary(事業の概要)
- 投資のハイライト
- 事業の概要
- オファリングの条件
2. Risk Factors(リスク要因)★重要
- 投資家必読セクション
- 事業・財務・規制リスク
- IPO特有のリスク
3. Use of Proceeds(資金使途)
- 調達資金の使い道
- 研究開発、マーケティング、債務返済など
4. Business(事業内容)★重要
- ビジネスモデルの詳細
- 競争優位性
- 市場機会
5. Management(経営陣)
- 経営陣の経歴
- 持株比率
- 報酬情報
6. Financial Statements(財務諸表)★重要
- 過去の業績
- 監査済み財務諸表
- 財務状況の分析
7. Underwriting(引受情報)
- 引受証券会社
- 手数料
- ロックアップ期間
IPOプロセスとS-1の位置づけ
S-1はIPOプロセスの中で重要なマイルストーンです。全体の流れを理解しましょう。

IPOの5つのフェーズ
Phase 1:準備期間
- 証券会社選定
- デューデリジェンス
- 期間:数ヶ月
Phase 2:S-1提出
- Draft S-1(非公開):EGC(新興成長企業)は非公開で提出可能
- S-1(公開):SECレビュー開始
- SECからのコメントに対応
Phase 3:ロードショー
- 機関投資家へのプレゼン
- 需要調査(ブックビルディング)
- 全米・海外を巡回
Phase 4:価格決定
- 公開価格の決定
- 424B4提出(最終目論見書)
Phase 5:上場
- NYSE/NASDAQで取引開始
- 上場初日の値動きに注目
ヒント
S-1は「会社の履歴書」です。IPO前に必ず確認しましょう。特にRisk Factors、Business、Financial Statementsは必読です。
20-F vs 10-K:外国企業と米国企業の比較
米国市場に上場している外国企業は、10-Kではなく20-Fを提出します。

比較表
| 項目 | 米国企業(10-K) | 外国企業(20-F) |
|---|---|---|
| 例 | Apple, Microsoft | トヨタ, アリババ |
| 会計基準 | US GAAP | IFRS or US GAAP |
| 提出期限 | 60〜90日 | 4ヶ月以内 |
| 内部統制 | SOX法準拠 | 一部免除あり |
内容はほぼ同等
20-Fの内容は10-Kとほぼ同等の情報を含んでいます。
- 事業内容
- 財務諸表
- リスク要因
- MD&A
重要
ADR(米国預託証券)に投資する場合は、10-Kではなく20-Fで企業分析を行います。
外国企業の開示:20-F / 6-K
外国企業は2つのフォームでSECに報告します。

20-F(年次報告書)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 頻度 | 年1回 |
| 内容 | 10-K相当 |
| 含まれる情報 | 事業内容、財務諸表、リスク要因、MD&A |
6-K(臨時報告書)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 頻度 | 随時 |
| 内容 | 8-K相当 |
| 含まれる情報 | 決算発表、重大イベント、プレスリリース |
代表的なADR企業
| 企業 | ティッカー | 国 |
|---|---|---|
| トヨタ | TM | 日本 |
| ソニー | SONY | 日本 |
| アリババ | BABA | 中国 |
| TSMC | TSM | 台湾 |
追加の資金調達フォーム
S-1以外にも、資金調達に関連するフォームがあります。日常的には不要ですが、特定の状況で参照します。

S-3:簡易登録届出書
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 上場企業(一定要件満たす) |
| 用途 | 増資、転換社債発行 |
| 特徴 | S-1より簡易、迅速 |
すでに10-K等で情報開示している企業は、S-3で追加の株式発行が可能です。
424B:最終目論見書
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | S-1/S-3提出企業 |
| 用途 | 価格決定後の最終情報 |
| 種類 | 424B1〜424B7 |
S-1提出後、価格が決定したら424Bで最終的な条件が開示されます。
S-4:M&A関連届出書
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 株式交換を伴うM&A |
| 用途 | 合併・買収時の株式発行 |
| 特徴 | 被買収企業の情報も含む |
株式交換でM&Aを行う場合、S-4で両社の情報が開示されます。
ヒント
これらは特定の状況で参照するフォームです。日常的には10-K/10-Qを優先しましょう。
SEC開示シリーズの全体マップ
全5回のシリーズで学んだSEC開示の全体像を振り返りましょう。

5つのカテゴリと重要度
1. 企業の定期開示(最重要★★★)
- 10-K, 10-Q, 8-K
- 第2回で解説
- 企業分析の基本中の基本
2. 機関投資家(重要★★)
- 13F, 13D, 13G
- 第3回で解説
- スマートマネーの追跡
3. インサイダー(重要★★)
- Form 3, 4, 5
- 第4回で解説
- 役員の売買シグナル
4. 株主総会・報酬(参考★)
- DEF 14A
- 第5回で解説
- ガバナンスの確認
5. IPO・外国企業(状況に応じて★)
- S-1, 20-F, 6-K
- 第5回で解説
- 特定の状況で参照
基本原則
基本は10-K/10-Q。必要に応じて他のフォームを参照- まず10-K/10-Qで企業の全体像を把握
- 機関投資家の動きは13Fで確認
- インサイダーの売買はForm 4で監視
- 必要に応じてDEF 14A、S-1等を参照
実践:EDGARで様々なフォームを探す
実際にEDGARで様々なフォームを検索してみましょう。
DEF 14Aを探す
- SEC EDGARにアクセス
- 企業名またはティッカーで検索
- 「DEF 14A」でフィルター
- 株主総会シーズン(4〜6月)の開示を確認
S-1を探す
- EDGARにアクセス
- 「IPO」や「S-1」で検索
- または、話題のIPO企業名で検索
- Amendment(S-1/A)も確認
20-Fを探す
- EDGARにアクセス
- 外国企業名(例:Toyota)で検索
- 「20-F」でフィルター
- 年次報告書を確認
シリーズ総括
全5回で学んだこと
| 回 | テーマ | 主要フォーム | 得られる情報 |
|---|---|---|---|
| 1 | SEC・EDGARの基本 | - | 全体像の把握 |
| 2 | 企業の定期開示 | 10-K, 10-Q, 8-K | 財務状況、事業リスク |
| 3 | 機関投資家 | 13F, 13D, 13G | スマートマネーの動き |
| 4 | インサイダー | Form 3, 4, 5 | 役員の売買シグナル |
| 5 | その他の重要開示 | DEF 14A, S-1, 20-F | 報酬、IPO、外国企業 |
投資家としての活用法
- まず10-K/10-Qで企業を理解:財務諸表、リスク要因、MD&Aを読む
- 13Fでスマートマネーを追跡:著名投資家のポートフォリオを参考に
- Form 4でインサイダーを監視:クラスター買いは強気シグナル
- DEF 14Aでガバナンスを確認:役員報酬、Say-on-Payをチェック
- IPO時はS-1を必読:投資前に必ず目論見書を確認
最後に
SEC開示はすべて無料で誰でもアクセスできます。ウォール街のプロと同じ情報を手に入れ、自分の投資判断に活かしましょう。
SEC開示を読み解くシリーズ
- 第1回:SECとEDGARの基本
- 第2回:10-K・10-Q・8-K - 企業を知る3つの柱
- 第3回:13F・13D・13G - 機関投資家を追う
- 第4回:Form 3・4・5 - インサイダーの動きを追う
- 第5回:DEF 14A・S-1・20-F - その他の重要開示(本記事)
まとめ
この記事のポイント
- DEF 14Aは株主総会前に公開される委任状説明書
- 役員報酬はSummary Compensation Tableで確認
- Say-on-Payは非拘束的だが、否決は強いメッセージ
- S-1はIPO目論見書。Risk Factors、Business、Financial Statementsが必読
- 20-Fは外国企業の年次報告書(10-K相当)
- 基本は10-K/10-Q。必要に応じて他のフォームを参照
シリーズを通じてのメッセージ
SEC開示を読む力は、米国株投資家の必須スキルです。最初は難しく感じるかもしれませんが、繰り返し読むことで徐々に慣れていきます。
まずは興味のある企業の10-Kを開いてみてください。そこから、あなたの投資の旅が始まります。
