この記事で学ぶこと
- SEC(米国証券取引委員会)とは何か、その役割
- EDGARデータベースの使い方
- SEC開示フォームの全体像と分類
- 個人投資家が優先すべきフォーム
SECとは?米国市場の番人
SEC(Securities and Exchange Commission)は、米国の証券取引を監督する連邦政府機関です。日本でいう金融庁に相当しますが、より強力な執行権限を持っています。

SECの3つの使命
| 使命 | 内容 |
|---|---|
| 投資家保護 | 詐欺や不正から投資家を守る |
| 公正な市場 | 透明性のある公平な市場を維持する |
| 資本形成の促進 | 企業が資金調達しやすい環境を整える |
SECの歴史
SECは1934年に設立されました。1929年の大恐慌をきっかけに、株式市場の信頼を回復するため、証券取引法(Securities Exchange Act of 1934)に基づいて誕生しました。
初代委員長はジョセフ・P・ケネディ(JFKの父)。皮肉にも、株式市場の「インサイダー」として知られた人物が、市場の番人となりました。
なぜSECが重要なのか
米国で株式を公開している企業は、SECに対して定期的な情報開示が義務付けられています。これには:
- 財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)
- 事業内容とリスク要因
- 経営陣の報酬
- 大株主の保有状況
- 重大なイベント(M&A、経営陣交代など)
が含まれます。この情報はすべて無料で一般公開されており、個人投資家でもウォール街のプロと同じ情報にアクセスできます。
EDGARとは?SEC開示の宝庫
EDGAR(Electronic Data Gathering, Analysis, and Retrieval)は、SECが運営する電子開示システムです。1996年から本格運用が始まり、現在では年間300万件以上の開示書類が登録されています。
EDGARでできること
- 企業の財務報告書(10-K、10-Q)の閲覧
- 機関投資家の保有銘柄(13F)の確認
- インサイダー取引(Form 4)のチェック
- IPO目論見書(S-1)の分析
- 過去の開示書類の検索
EDGARの使い方

EDGARへのアクセスは非常にシンプルです。
Step 1: 企業を検索
SEC EDGARにアクセスし、ティッカーシンボル(例:AAPL)または企業名で検索します。
Step 2: フォームを選択
目的に応じて閲覧したいフォームを選びます。フィルター機能で特定のフォームだけを表示することも可能です。
Step 3: 開示を閲覧
HTMLまたはPDF形式で開示書類を閲覧できます。最近の書類はインタラクティブな形式(iXBRL)で、データの比較・分析がしやすくなっています。
ヒント
ブックマーク推奨:よく見る企業のEDGARページは、CIK番号(Central Index Key)を使ってブックマークしておくと便利です。例えばAppleのCIKは「0000320193」です。
SEC開示フォームの全体像
SECには数十種類のフォームがありますが、個人投資家が知っておくべきものは限られています。まず全体像を把握しましょう。

5つのカテゴリ
SEC開示は大きく5つのカテゴリに分類できます。
1. 企業の定期開示(青色)
企業が定期的に提出する財務報告書です。
| フォーム | 名称 | 頻度 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 10-K | 年次報告書 | 年1回 | 事業内容、監査済み財務諸表、リスク要因 |
| 10-Q | 四半期報告書 | 年3回 | 四半期業績、未監査財務諸表 |
| 8-K | 臨時報告書 | 随時 | M&A、経営陣変更、破産等の重大イベント |
2. 機関投資家の開示(緑色)
大口投資家の保有状況を開示するフォームです。
| フォーム | 対象 | 頻度 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 13F | 運用資産1億ドル超の機関投資家 | 四半期 | 保有銘柄一覧(45日遅れ) |
| 13D | 5%超保有(アクティビスト) | 取得後10日 | 保有目的、企業への計画 |
| 13G | 5%超保有(パッシブ) | 取得後10日 | 基本的な保有情報のみ |
3. インサイダーの開示(オレンジ色)
役員・取締役の株式取引を開示するフォームです。
| フォーム | 対象 | 頻度 | 内容 |
|---|---|---|---|
| Form 3 | 新任役員・10%超株主 | 就任時 | 初期保有状況 |
| Form 4 | 役員・取締役 | 取引後2営業日 | 売買の詳細(株数、価格) |
| Form 5 | 上記と同じ | 年1回 | 年間の未報告取引 |
4. IPO・資金調達(紫色)
新規上場や増資に関するフォームです。
| フォーム | 内容 |
|---|---|
| S-1 | IPO登録届出書(目論見書) |
| S-3 | 既存上場企業の追加株式発行 |
5. 外国企業(赤色)
米国外の企業がADR等で上場している場合のフォームです。
| フォーム | 内容 |
|---|---|
| 20-F | 外国企業の年次報告書(10-K相当) |
| 6-K | 外国企業の臨時報告書(8-K相当) |
どのフォームから読むべきか?
すべてのフォームを読む必要はありません。投資目的に応じて優先順位をつけましょう。

最重要(★):10-K、10-Q
企業分析の基本中の基本です。財務状況、事業リスク、経営陣の見解がすべて詰まっています。投資判断の8割はこの2つのフォームでカバーできます。
重要(★):8-K、Form 4
速報性が高いフォームです。
- 8-K:M&Aや経営陣交代など、株価に影響するイベントがわかります
- Form 4:インサイダーが買っているか売っているか、彼らの「本音」が見えます
参考:13F、DEF 14A、S-1
- 13F:バフェットなど著名投資家のポートフォリオを追跡できます
- DEF 14A:役員報酬や株主提案の詳細がわかります
- S-1:IPO企業を分析する際に必須です
必要時のみ:13G、Form 3、20-F
日常的には使いませんが、特定の状況で参照します。
年間の開示スケジュール
米国企業の開示には一定のリズムがあります。12月決算企業を例に、年間スケジュールを見てみましょう。

主要イベント
| 時期 | イベント |
|---|---|
| 2月頃 | 10-K提出(年次報告書) |
| 4月頃 | 10-Q(Q1)提出 |
| 5〜6月頃 | DEF 14A + 株主総会 |
| 7月頃 | 10-Q(Q2)提出 |
| 10月頃 | 10-Q(Q3)提出 |
随時提出されるフォーム
- 8-K:重大イベント発生時(4営業日以内)
- 13F:四半期ごと(45日以内)
- Form 4:インサイダー取引後(2営業日以内)
重要
決算発表(Earnings Release)と10-Q/10-K提出は別物です。決算発表は通常、四半期終了後1〜2週間で行われますが、正式な10-Q/10-Kの提出はその後になります。
実践:Apple(AAPL)のEDGARを見てみよう
実際にAppleのEDGARページを見てみましょう。
- SEC EDGARにアクセス
- 検索ボックスに「AAPL」と入力
- 「Apple Inc.」をクリック
表示されるのは、Appleが提出したすべてのSEC開示書類です。
確認すべきポイント
- 最新の10-K:年間の業績と戦略を把握
- 最新の10-Q:直近四半期の動向を確認
- 8-K:最近の重大イベントをチェック
- Form 4:ティム・クックなど経営陣の売買を確認
まとめ
この記事のポイント
- SECは米国証券市場の番人。1934年設立
- EDGARはSECの電子開示システム。すべて無料で閲覧可能
- SEC開示は5カテゴリ:企業定期開示、機関投資家、インサイダー、IPO、外国企業
- 最優先で読むべきは10-Kと10-Q
- 速報性を求めるなら8-KとForm 4
次回予告
第2回では、企業分析の基本となる10-K・10-Q・8-Kの読み方を詳しく解説します。財務諸表、リスク要因、MD&A(経営陣の分析)など、投資判断に直結する情報の見つけ方を学びましょう。
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