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【宇宙産業マスター講座 第4回】衛星サービス(地球観測) - 農業・防災・気候監視への応用

地球観測衛星の仕組みから、農業(精密農業)、防災(災害監視)、気候変動監視への応用まで解説。光学センサー、SAR、解像度の違い、Planet・Maxar等の主要プレイヤー、日本のだいち・いぶきまで、宇宙から地球を見守る技術の全体像を理解しましょう。

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【宇宙産業マスター講座 第4回】衛星サービス(地球観測) - 農業・防災・気候監視への応用
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はじめに

前回は衛星通信と測位システムについて解説しました。今回は、衛星サービスのもう一つの柱である地球観測に焦点を当てます。

スマートフォンで天気予報を見る、ニュースで災害の被害状況を確認する、スーパーで買う野菜の産地を気にする——これらすべての裏側で、地球観測衛星が活躍しています。

地球観測衛星は、農業の効率化、災害への迅速な対応、気候変動の監視など、現代社会の課題解決に不可欠な存在となっています。Planetは200基以上の衛星で毎日地球全体を撮影し、Maxarは30cm解像度という驚異的な精細さで地表を捉えています。

本記事では、地球観測センサーの種類、解像度の違い、農業・防災・気候監視への応用、主要プレイヤー、日本の取り組み、そして市場動向まで、包括的に解説します。


地球観測センサーの種類

地球観測衛星に搭載されるセンサーは、大きく3種類に分けられます。それぞれに得意分野があり、用途に応じて使い分けられています。

地球観測センサーの種類

光学センサー

光学センサーは、人間の目と同じように可視光線や近赤外線を捉えるセンサーです。

項目内容
原理太陽光の反射を撮影
強み高解像度、直感的な画像
弱み夜間撮影不可、雲があると撮影不可
代表的な衛星WorldView、Pléiades、Planet Dove

最も一般的なセンサーで、Google Earthで見るような衛星画像は主に光学センサーで撮影されています。

SAR(合成開口レーダー)

SAR(Synthetic Aperture Radar)は、マイクロ波を地表に照射し、その反射波を捉えるセンサーです。

項目内容
原理マイクロ波の反射を測定
強み夜間撮影可能雲を透過、地表変化を検知
弱み画像の解釈が難しい、スペックルノイズ
代表的な衛星Capella、ICEYE、だいち4号

SARは光学センサーの弱点を補完する存在です。台風や豪雨で雲に覆われた災害地域でも、SARなら地表の状況を把握できます。

重要

SARの革命的な能力

SARは地表のミリメートル単位の変化を検知できます。これにより、地盤沈下、火山活動、建物の傾きなど、目に見えない変化を捉えることが可能です。

マルチスペクトル/ハイパースペクトル

分光センサーは、光を複数の波長帯に分けて測定するセンサーです。

項目内容
マルチスペクトル4〜10程度の波長帯
ハイパースペクトル数十〜数百の波長帯
強み物質の種類を特定可能
用途植生分析、鉱物探査、水質監視
代表的な衛星Sentinel-2、EnMAP、PRISMA

人間の目には同じ緑に見える植物でも、分光センサーを使えば健康状態や種類を判別できます。


解像度の違いと用途

衛星画像の「解像度」は、どれだけ細かいものまで識別できるかを示します。解像度によって、見えるものと用途が大きく異なります。

衛星画像の解像度比較

解像度別の特徴

解像度識別できるもの代表的な衛星主な用途
30m大きな農地、森林Landsat広域環境監視
10m道路、大型建物Sentinel-2農地監視、都市計画
3m建物の形状、車Planet Dove日次監視、変化検知
1m車の種類、歩道BlackSkyインフラ監視
30cm人、看板、マンホールMaxar WorldView安全保障、詳細分析

解像度とトレードオフ

解像度が高いほど詳細が見えますが、以下のトレードオフがあります。

項目高解像度低解像度
詳細度高い低い
カバー範囲狭い広い
データ量大きい小さい
コスト高い低い
撮影頻度低い高い

ヒント

用途に応じた選択

「高解像度が常に良い」わけではありません。地球全体の植生を毎日監視したいなら10m解像度で十分ですし、特定の施設を詳細に分析したいなら30cm解像度が必要です。用途に応じた最適な解像度を選ぶことが重要です。


農業への応用:精密農業

地球観測衛星は、農業の効率化に大きく貢献しています。精密農業(Precision Agriculture)と呼ばれるこのアプローチは、衛星データを活用して農作業を最適化します。

衛星データ × 精密農業

NDVI:植生指数

精密農業の核となるのがNDVI(Normalized Difference Vegetation Index、正規化差植生指数)です。

項目内容
原理植物の葉は近赤外線を強く反射する性質を利用
計算式NDVI = (近赤外 - 赤) / (近赤外 + 赤)
値の範囲-1〜+1(高いほど植生が豊か)
用途作物の健康状態、生育ステージの把握

NDVIマップを見れば、農地のどこで作物が順調に育ち、どこで問題が発生しているかが一目でわかります。

精密農業の応用例

応用内容効果
生育監視定期的に農地をスキャンし、作物の健康状態を把握問題の早期発見
可変施肥生育が悪いエリアにだけ肥料を追加投入肥料使用量20%削減
灌漑最適化水ストレスを検知し、必要な場所にだけ給水水使用量30%削減
収穫予測衛星画像から収穫量を事前に予測物流・販売計画の最適化
病害虫検知異常な植生パターンから病害虫を早期発見被害拡大の防止

経済効果

精密農業の導入により、以下の効果が報告されています。

指標効果
収穫量10-15%向上
肥料コスト15-20%削減
水使用量20-30%削減
農薬使用量20-25%削減

ポイント

日本での活用事例

北海道の大規模農場では、衛星データを活用した精密農業が進んでいます。数百ヘクタールの農地を人手で巡回するのは不可能ですが、衛星なら毎日自動でスキャンし、問題箇所だけを農家に通知できます。


防災への応用:災害監視

地球観測衛星は、災害対応において極めて重要な役割を果たしています。

衛星による災害監視

災害対応のフェーズ

フェーズ衛星の役割
予防ハザードマップ作成、リスク評価
準備避難経路計画、インフラ把握
対応被害範囲の即時把握、救助活動支援
復旧復旧進捗の監視、被害額算定

災害タイプ別の活用

災害使用センサー把握できること
洪水SAR浸水域の特定(雲があっても可能)
地震SAR、光学建物倒壊、地盤変動、液状化
津波光学、SAR浸水域、がれき分布
土砂災害SAR、光学崩壊箇所、土砂の流出範囲
森林火災熱赤外、光学火災の位置、延焼範囲
火山噴火SAR、熱赤外溶岩流、地殻変動

SARの威力

SARは災害監視において特に威力を発揮します。

特徴災害対応での意義
夜間撮影可能夜間に発生した災害も即座に把握
雲を透過台風・豪雨時でも撮影可能
変化検知災害前後の比較で被害を自動検出

重要

能登半島地震での活用

2024年の能登半島地震では、JAXAのだいち2号(ALOS-2)が発災直後から被害状況を撮影しました。発災後24時間以内に被害マップが作成され、救助活動の優先順位付けに活用されました。

国際協力:センチネルアジア

日本が主導するセンチネルアジアは、アジア太平洋地域の災害監視を目的とした国際協力プロジェクトです。

項目内容
参加機関28カ国・地域、100以上の機関
仕組み災害発生時に衛星画像を無償提供
運用開始2006年
対応災害数累計400件以上

気候変動監視への応用

地球観測衛星は、気候変動の「証拠」を収集する重要なツールです。

衛星による気候変動監視

温室効果ガス監視

温室効果ガス(GHG)の濃度を宇宙から測定する衛星が活躍しています。

衛星対象ガス特徴
いぶき(GOSAT)日本CO2、CH4世界初のGHG専用衛星
OCO-2/OCO-3米国CO2高精度測定
Sentinel-5PEUCH4、NO2、O3広域監視
GHGSatカナダCH4排出源特定

ヒント

メタン漏洩の検知

GHGSatなどの衛星は、油田・ガス田からのメタン漏洩を宇宙から検知できます。これにより、企業は自社施設からの排出を把握し、対策を講じることができます。ESG投資家も、この情報を投資判断に活用しています。

森林監視

世界の森林は、年間約1,000万ヘクタールが消失しています。衛星は森林の変化を監視しています。

監視項目衛星の役割
違法伐採森林減少の検知、法執行支援
森林火災火災の早期発見、延焼予測
植林活動植林の進捗監視、CO2吸収量算定
森林劣化健康状態の変化を検知

極地・氷河監視

監視対象観測結果
北極海氷夏季の海氷面積が40年で約40%減少
グリーンランド氷床年間約280Gtの氷が融解
南極氷床西南極で加速的な融解を観測
山岳氷河世界中の氷河が縮小傾向

海洋監視

監視項目観測結果
海面水温過去100年で約0.9℃上昇
海面上昇年間約3.4mmの上昇
海洋酸性化pH低下の監視
海流変化黒潮、メキシコ湾流の変化

主要プレイヤー

地球観測市場には、多様なプレイヤーが参入しています。

地球観測の主要プレイヤー

商業衛星オペレーター

企業特徴衛星数解像度
Planet米国毎日全地球撮影200基+3m
Maxar米国超高解像度6基30cm
Capella Space米国SAR専業10基+50cm
ICEYEフィンランド小型SAR25基+1m
BlackSky米国リアルタイム配信18基1m

Planet:毎日全地球撮影

Planetは、200基以上の小型衛星で毎日地球全体を撮影するという前例のないサービスを提供しています。

項目内容
衛星Doveシリーズ(約5kg)
解像度3m
撮影頻度毎日
用途農業、森林、インフラ監視

Maxar:安全保障の要

Maxar(旧DigitalGlobe)は、30cm解像度という商業衛星最高の精細さを誇ります。

項目内容
衛星WorldView-3、WorldView-Legion
解像度30cm
主要顧客米国政府、情報機関
特徴Google Mapsの衛星画像提供元

Capella Space・ICEYE:SARの新星

SAR市場では、Capella SpaceICEYEが急成長しています。

企業特徴
Capella Space米国発、50cm解像度SAR、政府向け
ICEYEフィンランド発、保険・金融向けに強み

ポイント

ICEYEと保険業界

ICEYEは、保険会社向けに洪水被害の自動算定サービスを提供しています。衛星データからAIが浸水範囲を特定し、被害額を自動計算。保険金の支払いを迅速化しています。


日本の地球観測衛星

日本も地球観測分野で重要な役割を果たしています。

日本の地球観測衛星

JAXA(政府系)

衛星センサー主な用途
だいち4号(ALOS-4)LバンドSAR防災、森林監視
いぶき(GOSAT)シリーズGHGセンサー温室効果ガス監視
しきさい(GCOM-C)多波長光学気候変動、植生
しずく(GCOM-W)マイクロ波放射計水循環、気象

だいち4号(ALOS-4)

2024年に打ち上げられただいち4号は、日本の地球観測の主力衛星です。

項目内容
センサーPALSAR-3(LバンドSAR)
解像度3m
観測幅200km
特徴森林を透過して地表を観測可能
用途防災、森林監視、インフラ監視

Lバンドは波長が長く、森林の樹冠を透過して地表を観測できる特徴があります。これは違法伐採の検知や、熱帯雨林下の地形把握に有効です。

いぶき(GOSAT)シリーズ

いぶきは、世界初の温室効果ガス専用観測衛星として2009年に打ち上げられました。

衛星打ち上げ特徴
いぶき(GOSAT)2009年世界初のGHG専用衛星
いぶき2号(GOSAT-2)2018年精度向上、排出源特定機能
いぶき3号(GOSAT-GW)2024年さらなる高精度化

民間ベンチャー

日本の民間企業も地球観測分野に参入しています。

企業特徴
Synspective小型SAR衛星、インフラ監視
アクセルスペース小型光学衛星(AxelGlobe)、日次監視
QPS研究所小型SAR衛星、九州発ベンチャー

ヒント

Synspectiveの成長

Synspectiveは、小型SAR衛星のコンステレーション構築を進めています。インフラの変形監視、地盤沈下の検知など、日本の国土監視に特化したサービスを展開。2024年には約100億円の資金調達を完了し、事業を拡大しています。


地球観測市場の展望

地球観測市場は急速に成長しています。

地球観測市場の成長予測

市場規模と成長予測

市場規模
2020年約40億ドル
2023年約60億ドル
2025年(予測)約80億ドル
2030年(予測)約150億ドル

年平均成長率(CAGR)は15%以上と予測されています。

成長ドライバー

要因説明
AI解析の進化画像から自動で情報抽出、人手不要に
衛星コスト低下小型衛星で参入障壁が低下
ESG/規制需要環境監視の義務化、開示要求の増加
クラウド連携AWS、Google Cloudとの統合
リアルタイム化撮影から配信までの時間短縮

セグメント別シェア

セグメントシェア
国防・インテリジェンス40%
農業15%
インフラ・エネルギー15%
環境・気候12%
保険・金融10%
その他8%

今後の技術トレンド

トレンド説明
AI/MLの統合衛星上でのエッジAI処理
ハイパースペクトルより詳細な物質分析
リアルタイム配信撮影から数分で配信
コンステレーション化高頻度・広域カバレッジ

ポイント

データから価値へ

地球観測ビジネスは「衛星画像の販売」から「インサイトの提供」へとシフトしています。ユーザーが欲しいのは画像そのものではなく、「農地の収穫量予測」「施設の異常検知」「CO2排出量の算定」といった分析結果です。AIとの組み合わせにより、この価値提供が加速しています。


まとめ

本記事では、地球観測衛星とその応用について解説しました。

ポイント

  • 地球観測センサーは光学、SAR、分光センサーの3種類に大別される
  • SARは夜間・雲天でも撮影可能で、災害監視に威力を発揮
  • 解像度は30m(広域)から30cm(詳細)まで、用途に応じて選択
  • 精密農業では衛星データで収穫量10-15%向上、肥料20%削減が可能
  • 災害対応では発災後24時間以内の被害マップ作成が実現
  • 温室効果ガス監視では日本の「いぶき」が世界をリード
  • 地球観測市場は2030年に約150億ドル規模に成長見込み

次回は「宇宙探査と新興領域 - 月経済・宇宙製造・宇宙旅行」と題して、月面開発、宇宙での製造、そして宇宙旅行ビジネスについて詳しく解説します。


シリーズ目次

  1. 宇宙産業の全体像 - 100兆円市場の構造を読み解く
  2. 軌道とロケット - 再利用技術とコスト革命
  3. 衛星サービス(通信・測位) - Starlinkからみちびきまで
  4. 衛星サービス(地球観測) - 農業・防災・気候監視への応用(本記事)
  5. 宇宙探査と新興領域 - 月経済・宇宙製造・宇宙旅行
  6. 地政学と持続可能性 - 宇宙の軍事化とデブリ問題
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