この記事で学ぶこと
- インサイダーの定義とSEC報告義務
- Form 3・4・5の違いと役割
- Form 4の読み方と注目ポイント
- 買いシグナルと売りシグナルの解釈
- クラスター買いの重要性
- 10b5-1プランと売りの解釈
- レッドフラグ(警戒すべきパターン)
インサイダーとは?
SECが定義するインサイダーとは、企業の内部情報にアクセスできる立場にある人物を指します。彼らは株式を売買する際、SECに報告する義務があります。

インサイダーの3つのカテゴリ
1. 役員(Officers)
CEO、CFO、COOなど、経営の意思決定に関わる者です。企業の戦略や業績について最も詳しい情報を持っています。
2. 取締役(Directors)
取締役会メンバーです。社外取締役も含まれます。企業のガバナンスに関与し、重要な意思決定に参加します。
3. 10%超株主(10% Owners)
発行済株式の10%以上を保有する大株主です。個人でも機関投資家でも、10%を超えると報告義務が発生します。
重要
これらの人物は株式売買をSECに報告する義務があり、その情報は一般に公開されます。
Form 3・4・5の違い
インサイダーの株式取引は、3種類のフォームで報告されます。タイミングと内容が異なります。

Form 3:初期保有報告
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| タイミング | 就任時(At Induction) |
| 期限 | 就任後10日以内 |
| 内容 | 就任時点の保有株数 |
| 重要度 | ★☆☆ |
新たに役員・取締役に就任した人物、または10%超を取得した株主が提出します。その時点での保有状況を開示するスタート地点です。
Form 4:取引報告
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| タイミング | 取引発生時(At Transaction) |
| 期限 | 取引後2営業日以内 |
| 内容 | 売買の詳細(株数、価格、日付) |
| 重要度 | ★★★ |
投資家が最も注目すべきフォームです。インサイダーが株式を売買するたびに提出され、ほぼリアルタイムで取引内容がわかります。
Form 5:年次報告
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| タイミング | 年度末(Fiscal Year End) |
| 期限 | 会計年度終了後45日以内 |
| 内容 | 未報告取引のまとめ |
| 重要度 | ★☆☆ |
Form 4で報告されなかった小規模な取引や、報告が免除された取引をまとめて年次報告します。
Form 4の読み方
Form 4は投資家にとって最も価値のある情報源です。読み方をマスターしましょう。

5つの注目ポイント
1. 報告者情報:誰が?
- 名前:取引を行った人物
- 役職:CEO、CFO、取締役など
- 企業との関係:どのような立場か
CEOやCFOの取引は特に注目です。彼らは企業の将来について最も詳しい情報を持っています。
2. 取引種類:買い?売り?
- P(Purchase):買い(緑色で表示されることが多い)
- S(Sale):売り(赤色で表示されることが多い)
Form 4の「Transaction Code」欄で確認できます。
3. 取引日・株数:いつ?何株?
- 取引日:売買が行われた日付
- 株数:取引された株式数
大量の取引は、インサイダーの強い確信を示している可能性があります。
4. 取引価格:いくらで?
1株あたりの取引価格です。現在の株価と比較して、インサイダーがどの水準で売買したかがわかります。
5. 取引後保有数:今、何株持っている?
取引後の総保有株数です。全体のポジションサイズと、今回の取引の相対的な大きさがわかります。
Transaction Code一覧
| コード | 意味 |
|---|---|
| P | 公開市場での買い(Purchase) |
| S | 公開市場での売り(Sale) |
| A | 株式報酬の付与(Award) |
| M | ストックオプションの行使(Exercise) |
| G | 贈与(Gift) |
| F | 税金支払いのための売却 |
ヒント
最も重要なのはP(買い)とS(売り)です。特にPは自腹での購入を意味し、強いシグナルとなります。
買いシグナル vs 売りシグナルの解釈
インサイダーの売買は、すべてが同じ重みを持つわけではありません。買いと売りでは解釈が大きく異なります。

買いシグナル:信頼度★★★★★
「自腹で買う = 本気の強気」インサイダーが自分のお金で株を買うということは、その企業の将来に強い自信を持っていることを意味します。
注目すべき買い
- クラスター買い:複数の役員が同時期に購入
- 大型の買い:年収の10%以上を投資
- 株価下落時の買い:市場が悲観的な時に買う
売りシグナル:信頼度★★☆☆☆
「売りの理由は様々」売りは必ずしも弱気シグナルとは限りません。様々な理由があり得ます。
売りの理由(弱気とは限らない)
- ストックオプションの行使・売却:報酬の現金化
- 分散投資:ポートフォリオの調整
- 住宅購入・離婚等の個人事情:現金が必要
- 10b5-1プラン:事前に計画された自動売却
注意
買いは強気シグナル、売りは要分析。売りを見たら、その理由を探りましょう。
クラスター買いの重要性
クラスター買いとは、複数のインサイダーが同時期に株式を購入することです。1人の買いよりも、複数人の買いの方が信頼性が高いです。

クラスター買いの例
ある月に以下のような取引があったとします:
| 日付 | 役職 | 購入額 |
|---|---|---|
| 3/4 | CEO | $500K |
| 3/8 | CFO | $200K |
| 3/11 | 取締役A | $100K |
| 3/17 | 取締役B | $150K |
このように複数のインサイダーが同時期に購入している場合、以下のことが推測できます:
- 経営陣が一致して企業の将来に強気
- 近い将来、好材料がある可能性
- 株価が割安と判断されている
なぜクラスター買いは信頼できるのか
- 1人の判断ではない:複数人が同じ結論に達している
- 自腹のリスク:全員が自分のお金をリスクにさらしている
- 情報の共有:経営陣は同じ情報を持っている
ヒント
クラスター買いを見つけたら、その企業を詳しく調査する価値があります。
10b5-1プランとは
10b5-1プランは、インサイダーが事前に売却計画を策定し、自動的に売却を行う仕組みです。

10b5-1プランの流れ
Step 1:計画策定
インサイダーが重要情報を知らない状態で、売却計画を策定します。
- 売却日
- 売却株数
- 価格条件(例:株価が$100以上なら売却)
Step 2:SEC届出
計画をSECに届出します。これにより、将来の売却がインサイダー取引ではないことを証明できます。
Step 3:自動執行
計画に従って自動的に売却が行われます。インサイダー本人の判断は介在しません。
10b5-1プランの売りをどう解釈するか
10b5-1プランに基づく売りは、弱気シグナルとは限りません。
- 計画は数ヶ月〜1年以上前に策定されている
- 現在の株価や業績とは関係なく実行される
- 税金対策や分散投資が目的のことが多い
重要
Form 4に「Rule 10b5-1」の記載があれば、事前計画に基づく売却です。過度に警戒する必要はありません。
Form 144:制限株式の売却通知
Form 144は、制限株式(Restricted Stock)を大量に売却する際に事前提出が必要なフォームです。

制限株式とは
- IPO前に取得した株式
- ストックオプションで取得した株式
- 一定期間、売却が制限される株式
これらは「Rule 144」に基づき、一定の条件を満たせば売却が可能になります。
Form 144の役割
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 目的 | 大量売却の事前通知 |
| 条件 | 3ヶ月で5,000株超 or $50,000超 |
| 期限 | 売却注文を出す前に提出 |
投資家への示唆
大量のForm 144が提出されている場合:
- 大量売却の予告と考えられる
- 株価への売り圧力を事前に察知できる
- 特にIPO後のロックアップ解除時期に注目
インサイダー取引分析ツール
インサイダー取引を効率的に追跡するためのツールを紹介します。

OpenInsider
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| URL | openinsider.com |
| 特徴 | 無料・シンプル |
| 機能 | Form 4の一覧、クラスター買い検出 |
まずはここから始めましょう。無料で使いやすく、クラスター買いのスクリーニングも可能です。
SEC EDGAR
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| URL | sec.gov/edgar |
| 特徴 | 公式・原本 |
| 機能 | Form 3/4/5の原本閲覧 |
最終確認は必ずEDGARで。サードパーティツールのデータに誤りがある可能性があります。
Finviz
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| URL | finviz.com |
| 特徴 | スクリーニング |
| 機能 | インサイダー買いでフィルター |
株式スクリーナーで「Insider Transactions」を条件に追加し、インサイダー買いがある銘柄を抽出できます。
GuruFocus
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| URL | gurufocus.com |
| 特徴 | 詳細分析 |
| 機能 | インサイダー取引履歴、統計 |
インサイダー取引の履歴を長期的に追跡し、パターンを分析できます。
レッドフラグ:警戒すべきパターン
インサイダー取引には、警戒すべきパターンがあります。これらを見つけたら、追加調査が必要です。

1. 決算前の大量売却
決算発表の直前に経営陣が大量売却している場合、悪い決算を事前に知っている可能性があります。
- 決算発表の1〜2週間前に注目
- 特にCEO/CFOの売却は要注意
2. 複数役員の同時売却
クラスター売りは、経営陣が一致して弱気になっている可能性を示唆します。
- 買いのクラスターは強気シグナル
- 売りのクラスターは弱気シグナル
3. CEO/CFOの全株売却
保有株をすべて売却している場合、会社への信頼を失った可能性があります。
- 一部売却は許容範囲
- 全株売却は要警戒
4. IPO後のロックアップ解除即売却
ロックアップ期間終了直後に創業者・経営陣が大量売却する場合、「逃げ出している」可能性があります。
- IPO後180日のロックアップ解除時期に注目
- 解除直後の売却は要確認
注意
これらのパターンは追加調査が必要です。ただし、1つのパターンだけで投資判断をせず、他の情報と合わせて総合的に判断しましょう。
実践:Appleのインサイダー取引を調べる
実際にApple(AAPL)のインサイダー取引を調べてみましょう。
Step 1:OpenInsiderでチェック
- OpenInsiderにアクセス
- 検索ボックスに「AAPL」と入力
- 最近のForm 4一覧を確認
Step 2:取引パターンを分析
- 買いが多いか、売りが多いか
- クラスター買いはあるか
- 10b5-1プランに基づく売りか
Step 3:SEC EDGARで原本確認
- SEC EDGARにアクセス
- 「AAPL」で検索
- 「4」でフィルター
- 気になるForm 4の原本を確認
Step 4:総合判断
- インサイダーは強気か弱気か
- レッドフラグはないか
- 他のファンダメンタル分析と整合性があるか
まとめ
この記事のポイント
- インサイダーは役員、取締役、10%超株主
- Form 4が最も重要。取引後2営業日以内に提出
- 買いは強気シグナル。自腹で買う=本気の確信
- 売りは要分析。理由は様々(10b5-1、税金、分散投資等)
- クラスター買いは信頼度が高い
- レッドフラグに注意:決算前の大量売却、クラスター売り、全株売却
次回予告
第5回(最終回)では、DEF 14A・S-1・20-Fを解説します。役員報酬の読み方、IPO目論見書の分析、外国企業(ADR)の開示について学び、SECシリーズを完結させましょう。
SEC開示を読み解くシリーズ
- 第1回:SECとEDGARの基本
- 第2回:10-K・10-Q・8-K - 企業を知る3つの柱
- 第3回:13F・13D・13G - 機関投資家を追う
- 第4回:Form 3・4・5 - インサイダーの動きを追う(本記事)
- 第5回:DEF 14A・S-1・20-F - その他の重要開示
