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【半導体マスター講座 第3回】プロセッサの世界 - CPU・GPU・SoC・FPGA・ASIC

CPU、GPU、SoC、FPGA、ASICの違いを解説。なぜAI時代にGPUが主役になったのか、NVIDIAが独走する理由とCUDAエコシステムの強さを理解しましょう。

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半導体マスター講座
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はじめに

前回は半導体を4つのカテゴリ(ロジック・メモリ・アナログ・パワー)に分類しました。今回は、その中でも最も重要なロジック半導体、特に「プロセッサ」について深掘りします。

「CPU」「GPU」という言葉は日常的に耳にしますが、その違いを正確に説明できる人は少ないかもしれません。さらに「SoC」「FPGA」「ASIC」となると、専門家でなければ馴染みがないでしょう。

しかし、これらの違いを理解することはAI時代の投資において極めて重要 です。なぜNVIDIAが急成長したのか、なぜIntelは苦戦しているのか——その答えがここにあります。


プロセッサの5つのタイプ

プロセッサ(演算処理装置)は、設計思想によって大きく5つに分類されます。

プロセッサの5つのタイプ

タイプ特徴強み代表企業
CPU汎用逐次処理複雑なタスクIntel, AMD
GPU並列処理特化大量の単純計算NVIDIA, AMD
SoC複数機能を統合省電力・小型Qualcomm, Apple
FPGA製造後に書き換え可能柔軟性AMD (Xilinx), Intel
ASIC特定用途専用最高効率Google, 各社カスタム

それぞれを詳しく見ていきましょう。


CPU - コンピュータの「司令塔」

CPU

CPUとは?

CPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置) は、コンピュータの「頭脳」として、あらゆる処理を統括する汎用プロセッサです。

CPUの特徴

特性内容
処理方式逐次処理(命令を1つずつ順番に実行)
コア数少数(4〜64コア程度)
得意な処理複雑な条件分岐、多様なタスク
クロック周波数高い(3〜5GHz)

CPUが得意なこと

  • 複雑な判断:「もしAならBを実行、そうでなければCを実行」
  • 多様なタスクの切り替え:ブラウザ、メール、Excelを同時に動かす
  • OSの制御:Windowsやmacosの動作を管理

主要企業と市場シェア

PC向けCPU

企業シェア(2024年)代表製品
Intel約60%Core Ultra, Core i
AMD約40%Ryzen

サーバー向けCPU

企業シェア(2024年)代表製品
Intel約50%Xeon
AMD約30%EPYC
Arm系約20%AWS Graviton, Ampere

ポイント

投資のポイント:IntelとAMDの競争

長らくIntelが圧倒的だったCPU市場ですが、AMDがZenアーキテクチャ(2017年〜)で大躍進。特にサーバー向けEPYCは、マルチコア性能とコストパフォーマンスでIntel Xeonを猛追しています。Intelは製造プロセスの遅れが響き、市場シェアを失っています。


GPU - 並列処理の「スーパーパワー」

GPU

GPUとは?

GPU(Graphics Processing Unit:画像処理装置) は、もともと3Dグラフィックスの描画用に開発されました。しかし今や、AI・機械学習の中核 として半導体業界の主役に躍り出ています。

GPUの特徴

特性内容
処理方式並列処理(数千の計算を同時実行)
コア数非常に多い(数千〜数万コア)
得意な処理単純な計算の大量同時実行
用途ゲーム、AI学習、科学計算

CPUとGPUの違い

比較項目CPUGPU
コア数4〜64個数千〜数万個
各コアの能力高い(複雑な処理可能)低い(単純な処理のみ)
処理方式逐次(1つずつ)並列(同時に大量)
例え少数精鋭の専門家チーム大人数の作業員軍団

例え話

  • CPU:1人の天才シェフが複雑なフルコース料理を作る
  • GPU:1000人の作業員が同じサンドイッチを同時に1000個作る

AIの学習では「同じ計算を膨大なデータに対して繰り返す」必要があります。これはまさにGPUの得意分野なのです。

主要企業

企業ポジション代表製品
NVIDIAAI GPU独占(90%超)H100, H200, Blackwell
AMD2位だが大きく後れInstinct MI300
Intel参入するも苦戦Gaudi

なぜAI時代にGPUが主役になったのか?

なぜGPUがAIに最適なのか

AIの計算とは何か?

AIの学習(ディープラーニング)の本質は、巨大な行列計算 です。

  1. 大量のデータを入力
  2. ニューラルネットワーク(行列)で計算
  3. 結果と正解を比較
  4. パラメータを微調整
  5. 1〜4を何億回も繰り返す

この「同じ計算を大量のデータに対して繰り返す」処理は、GPUの並列処理能力 と完璧にマッチしています。

NVIDIAが独走する理由:CUDAエコシステム

NVIDIAがAI GPU市場で90%超のシェアを持つ最大の理由は、ハードウェアの性能だけではありません。CUDA(クーダ) というソフトウェア基盤の存在が決定的です。

CUDAとは?

  • 2006年にNVIDIAが開発したGPUプログラミング環境
  • GPU上で汎用計算を行うための言語・ツール群
  • AI研究者・開発者のほぼ全員がCUDAを使用

CUDAの強さ

要素内容
歴史約20年の蓄積、膨大なライブラリ
エコシステムPyTorch、TensorFlowなど主要AIフレームワークがCUDA最適化
開発者コミュニティ世界中の研究者・エンジニアがCUDAに習熟
乗り換えコスト他社GPUへの移行は大規模なコード書き換えが必要

注意

CUDAロックイン

AMDやIntelもAI向けGPUを開発していますが、CUDAとの互換性がありません。企業がNVIDIA以外に乗り換えるには、既存のAIシステムを大幅に書き換える必要があり、これが強力な参入障壁 になっています。

NVIDIAの製品ロードマップ

世代製品発売年特徴
HopperH1002022現在の主力、データセンター向け
HopperH2002024H100の改良版、HBM3E搭載
BlackwellB2002024次世代、AI性能2倍以上
BlackwellGB2002024GPU2基+CPU1基のスーパーチップ

SoC - すべてを1チップに

SoC

SoCとは?

SoC(System on Chip) は、CPU、GPU、通信モデム、メモリコントローラなど複数の機能を1つのチップに統合 した半導体です。

SoCの特徴

特性内容
統合度CPU + GPU + 通信 + AI + その他を1チップに
メリット省電力、小型化、低コスト
用途スマートフォン、タブレット、IoT

スマートフォンSoCの構成例

Apple A17 Pro(iPhone 15 Pro搭載)の例:

機能ブロック役割
CPUコアアプリの実行
GPUコアグラフィックス描画
Neural EngineAI処理(顔認識など)
ISPカメラ画像処理
セキュリティ指紋・顔認証の暗号処理
メモリコントローラRAMとの通信

これらすべてが爪の先ほどの1チップ に収まっています。

主要企業

企業代表製品用途
AppleAシリーズ、MシリーズiPhone、Mac
QualcommSnapdragonAndroidスマホ
MediaTekDimensity中価格帯スマホ
SamsungExynosGalaxy(一部地域)

ポイント

投資のポイント:AppleとQualcomm

AppleはiPhoneとMacの両方で自社設計SoCを採用し、垂直統合による差別化 を実現しています。一方Qualcommは、Androidスマホ市場の大半にSnapdragonを供給し、水平展開で規模を稼ぐ モデルです。どちらもファブレスで、製造はTSMCに委託しています。


FPGA vs ASIC - 柔軟性と効率のトレードオフ

FPGA vs ASIC

FPGAとは?

FPGA(Field Programmable Gate Array) は、製造後に回路を書き換えられる 半導体です。

特性内容
柔軟性何度でも回路を再構成可能
開発速度数週間で新しい回路を実装
効率ASICより劣る(同じ処理なら10倍以上の消費電力)
コスト少量なら安い、大量生産には不向き

FPGAの用途

  • 試作・開発:ASICを作る前のテスト
  • 少量生産:専用チップを作るほどの量が見込めない場合
  • リアルタイム処理:通信機器、金融取引システム

ASICとは?

ASIC(Application Specific Integrated Circuit) は、特定の用途に特化した専用チップ です。

特性内容
柔軟性なし(一度作ったら変更不可)
開発速度1〜2年(設計・製造に時間)
効率最高(同じ処理ならGPUの10倍以上効率的)
コスト開発費は高い、大量生産で安くなる

ASICの用途

  • 暗号通貨マイニング:Bitcoin専用マシン
  • AI推論:GoogleのTPU、AmazonのInferentia
  • ネットワーク機器:ルーター、スイッチ

FPGAとASICの比較

比較項目FPGAASIC
開発期間短い(週〜月)長い(年単位)
初期コスト低い高い(数億円〜)
大量生産時のコスト高い低い
電力効率低い高い
変更の柔軟性高いなし
適した生産量少量〜中量大量

主要企業

分野企業備考
FPGAAMD(Xilinx買収)FPGA市場1位
FPGAIntel(Altera買収)FPGA市場2位
AI ASICGoogleTPU(自社データセンター用)
AI ASICAmazonInferentia, Trainium
AI ASICBroadcomGoogle・Meta向けカスタムチップ

注意

ASICはNVIDIA GPUを脅かすか?

GoogleのTPUやAmazonのInferentiaなど、BigTechは自社用AI ASICを開発しています。理論上、特定のAIモデルに最適化したASICはGPUより効率的です。しかし、AIモデルは急速に進化 しており、柔軟性のないASICはすぐに陳腐化するリスクがあります。当面はGPUの汎用性が優位と見られています。


プロセッサ選択の判断基準

どのプロセッサを使うべきかは、用途によって決まります。

用途最適なプロセッサ理由
一般的なPC作業CPU多様なタスクを柔軟に処理
ゲームCPU + GPUCPUでゲームロジック、GPUで描画
AI学習(トレーニング)GPU大量の並列計算が必要
AI推論(本番環境)GPU or ASIC効率重視ならASIC
スマートフォンSoC省電力・小型化が必須
試作・開発FPGA柔軟に変更可能
暗号通貨マイニングASIC最高効率が求められる

投資視点でのまとめ

企業別ポジショニング

企業主力製品強みリスク
NVIDIAAI GPUCUDAエコシステム、独占的シェア高いバリュエーション
AMDCPU, GPUコスパ、FPGA統合AI GPUでNVIDIAに大差
IntelCPUブランド、自社工場製造プロセス遅れ
QualcommモバイルSoC5G特許、Snapdragonスマホ市場の成熟
BroadcomカスタムASICBigTech向け設計力顧客集中リスク

市場トレンド

  1. AI GPU需要は継続:ChatGPT以降、企業のAI投資は加速
  2. CPU市場は成熟:成長率は低いが安定
  3. エッジAI:スマホやIoTでのAI処理需要が増加(SoC、FPGA)
  4. カスタムチップ:BigTechは自社ASIC開発を加速

まとめ

本記事では、プロセッサの5つのタイプを解説しました。

ポイント:

  • CPU:汎用的な逐次処理、PC・サーバーの頭脳
  • GPU:並列処理特化、AI時代の主役
  • SoC:複数機能を統合、スマホに必須
  • FPGA:書き換え可能、試作・少量生産向け
  • ASIC:特定用途専用、最高効率だが柔軟性なし

AI時代のキーポイント:

  • GPUはAI学習に最適(並列処理)
  • NVIDIAはCUDAエコシステムで競合を圧倒
  • ASICは効率的だがAIの進化速度に追いつけないリスク

次回は「サプライチェーンを読み解く - 設計から製造まで」と題して、半導体がどのように作られているのか、そのバリューチェーンを解説します。TSMC、ASML、Armなど、投資家が知るべき重要企業が登場します。


シリーズ目次

  1. 半導体とは何か - 1兆ドル市場の全体像
  2. 半導体の種類を理解する - ロジック・メモリ・アナログ・パワー
  3. プロセッサの世界 - CPU・GPU・SoC・FPGA・ASIC(本記事)
  4. サプライチェーンを読み解く - 設計から製造まで
  5. ビジネスモデル3類型 - IDM・ファブレス・ファウンドリ
  6. 主要企業徹底解説 - 誰が何を支配しているか
  7. AI時代の半導体と地政学 - 投資家が知るべきリスク
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