はじめに
前回は半導体を4つのカテゴリ(ロジック・メモリ・アナログ・パワー)に分類しました。今回は、その中でも最も重要なロジック半導体、特に「プロセッサ」について深掘りします。
「CPU」「GPU」という言葉は日常的に耳にしますが、その違いを正確に説明できる人は少ないかもしれません。さらに「SoC」「FPGA」「ASIC」となると、専門家でなければ馴染みがないでしょう。
しかし、これらの違いを理解することはAI時代の投資において極めて重要 です。なぜNVIDIAが急成長したのか、なぜIntelは苦戦しているのか——その答えがここにあります。
プロセッサの5つのタイプ
プロセッサ(演算処理装置)は、設計思想によって大きく5つに分類されます。
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| タイプ | 特徴 | 強み | 代表企業 |
|---|---|---|---|
| CPU | 汎用逐次処理 | 複雑なタスク | Intel, AMD |
| GPU | 並列処理特化 | 大量の単純計算 | NVIDIA, AMD |
| SoC | 複数機能を統合 | 省電力・小型 | Qualcomm, Apple |
| FPGA | 製造後に書き換え可能 | 柔軟性 | AMD (Xilinx), Intel |
| ASIC | 特定用途専用 | 最高効率 | Google, 各社カスタム |
それぞれを詳しく見ていきましょう。
CPU - コンピュータの「司令塔」
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CPUとは?
CPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置) は、コンピュータの「頭脳」として、あらゆる処理を統括する汎用プロセッサです。
CPUの特徴
| 特性 | 内容 |
|---|---|
| 処理方式 | 逐次処理(命令を1つずつ順番に実行) |
| コア数 | 少数(4〜64コア程度) |
| 得意な処理 | 複雑な条件分岐、多様なタスク |
| クロック周波数 | 高い(3〜5GHz) |
CPUが得意なこと
- 複雑な判断:「もしAならBを実行、そうでなければCを実行」
- 多様なタスクの切り替え:ブラウザ、メール、Excelを同時に動かす
- OSの制御:Windowsやmacosの動作を管理
主要企業と市場シェア
PC向けCPU
| 企業 | シェア(2024年) | 代表製品 |
|---|---|---|
| Intel | 約60% | Core Ultra, Core i |
| AMD | 約40% | Ryzen |
サーバー向けCPU
| 企業 | シェア(2024年) | 代表製品 |
|---|---|---|
| Intel | 約50% | Xeon |
| AMD | 約30% | EPYC |
| Arm系 | 約20% | AWS Graviton, Ampere |
ポイント
長らくIntelが圧倒的だったCPU市場ですが、AMDがZenアーキテクチャ(2017年〜)で大躍進。特にサーバー向けEPYCは、マルチコア性能とコストパフォーマンスでIntel Xeonを猛追しています。Intelは製造プロセスの遅れが響き、市場シェアを失っています。
GPU - 並列処理の「スーパーパワー」
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GPUとは?
GPU(Graphics Processing Unit:画像処理装置) は、もともと3Dグラフィックスの描画用に開発されました。しかし今や、AI・機械学習の中核 として半導体業界の主役に躍り出ています。
GPUの特徴
| 特性 | 内容 |
|---|---|
| 処理方式 | 並列処理(数千の計算を同時実行) |
| コア数 | 非常に多い(数千〜数万コア) |
| 得意な処理 | 単純な計算の大量同時実行 |
| 用途 | ゲーム、AI学習、科学計算 |
CPUとGPUの違い
| 比較項目 | CPU | GPU |
|---|---|---|
| コア数 | 4〜64個 | 数千〜数万個 |
| 各コアの能力 | 高い(複雑な処理可能) | 低い(単純な処理のみ) |
| 処理方式 | 逐次(1つずつ) | 並列(同時に大量) |
| 例え | 少数精鋭の専門家チーム | 大人数の作業員軍団 |
例え話:
- CPU:1人の天才シェフが複雑なフルコース料理を作る
- GPU:1000人の作業員が同じサンドイッチを同時に1000個作る
AIの学習では「同じ計算を膨大なデータに対して繰り返す」必要があります。これはまさにGPUの得意分野なのです。
主要企業
| 企業 | ポジション | 代表製品 |
|---|---|---|
| NVIDIA | AI GPU独占(90%超) | H100, H200, Blackwell |
| AMD | 2位だが大きく後れ | Instinct MI300 |
| Intel | 参入するも苦戦 | Gaudi |
なぜAI時代にGPUが主役になったのか?
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AIの計算とは何か?
AIの学習(ディープラーニング)の本質は、巨大な行列計算 です。
- 大量のデータを入力
- ニューラルネットワーク(行列)で計算
- 結果と正解を比較
- パラメータを微調整
- 1〜4を何億回も繰り返す
この「同じ計算を大量のデータに対して繰り返す」処理は、GPUの並列処理能力 と完璧にマッチしています。
NVIDIAが独走する理由:CUDAエコシステム
NVIDIAがAI GPU市場で90%超のシェアを持つ最大の理由は、ハードウェアの性能だけではありません。CUDA(クーダ) というソフトウェア基盤の存在が決定的です。
CUDAとは?
- 2006年にNVIDIAが開発したGPUプログラミング環境
- GPU上で汎用計算を行うための言語・ツール群
- AI研究者・開発者のほぼ全員がCUDAを使用
CUDAの強さ
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 歴史 | 約20年の蓄積、膨大なライブラリ |
| エコシステム | PyTorch、TensorFlowなど主要AIフレームワークがCUDA最適化 |
| 開発者コミュニティ | 世界中の研究者・エンジニアがCUDAに習熟 |
| 乗り換えコスト | 他社GPUへの移行は大規模なコード書き換えが必要 |
注意
AMDやIntelもAI向けGPUを開発していますが、CUDAとの互換性がありません。企業がNVIDIA以外に乗り換えるには、既存のAIシステムを大幅に書き換える必要があり、これが強力な参入障壁 になっています。
NVIDIAの製品ロードマップ
| 世代 | 製品 | 発売年 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Hopper | H100 | 2022 | 現在の主力、データセンター向け |
| Hopper | H200 | 2024 | H100の改良版、HBM3E搭載 |
| Blackwell | B200 | 2024 | 次世代、AI性能2倍以上 |
| Blackwell | GB200 | 2024 | GPU2基+CPU1基のスーパーチップ |
SoC - すべてを1チップに
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SoCとは?
SoC(System on Chip) は、CPU、GPU、通信モデム、メモリコントローラなど複数の機能を1つのチップに統合 した半導体です。
SoCの特徴
| 特性 | 内容 |
|---|---|
| 統合度 | CPU + GPU + 通信 + AI + その他を1チップに |
| メリット | 省電力、小型化、低コスト |
| 用途 | スマートフォン、タブレット、IoT |
スマートフォンSoCの構成例
Apple A17 Pro(iPhone 15 Pro搭載)の例:
| 機能ブロック | 役割 |
|---|---|
| CPUコア | アプリの実行 |
| GPUコア | グラフィックス描画 |
| Neural Engine | AI処理(顔認識など) |
| ISP | カメラ画像処理 |
| セキュリティ | 指紋・顔認証の暗号処理 |
| メモリコントローラ | RAMとの通信 |
これらすべてが爪の先ほどの1チップ に収まっています。
主要企業
| 企業 | 代表製品 | 用途 |
|---|---|---|
| Apple | Aシリーズ、Mシリーズ | iPhone、Mac |
| Qualcomm | Snapdragon | Androidスマホ |
| MediaTek | Dimensity | 中価格帯スマホ |
| Samsung | Exynos | Galaxy(一部地域) |
ポイント
AppleはiPhoneとMacの両方で自社設計SoCを採用し、垂直統合による差別化 を実現しています。一方Qualcommは、Androidスマホ市場の大半にSnapdragonを供給し、水平展開で規模を稼ぐ モデルです。どちらもファブレスで、製造はTSMCに委託しています。
FPGA vs ASIC - 柔軟性と効率のトレードオフ
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FPGAとは?
FPGA(Field Programmable Gate Array) は、製造後に回路を書き換えられる 半導体です。
| 特性 | 内容 |
|---|---|
| 柔軟性 | 何度でも回路を再構成可能 |
| 開発速度 | 数週間で新しい回路を実装 |
| 効率 | ASICより劣る(同じ処理なら10倍以上の消費電力) |
| コスト | 少量なら安い、大量生産には不向き |
FPGAの用途
- 試作・開発:ASICを作る前のテスト
- 少量生産:専用チップを作るほどの量が見込めない場合
- リアルタイム処理:通信機器、金融取引システム
ASICとは?
ASIC(Application Specific Integrated Circuit) は、特定の用途に特化した専用チップ です。
| 特性 | 内容 |
|---|---|
| 柔軟性 | なし(一度作ったら変更不可) |
| 開発速度 | 1〜2年(設計・製造に時間) |
| 効率 | 最高(同じ処理ならGPUの10倍以上効率的) |
| コスト | 開発費は高い、大量生産で安くなる |
ASICの用途
- 暗号通貨マイニング:Bitcoin専用マシン
- AI推論:GoogleのTPU、AmazonのInferentia
- ネットワーク機器:ルーター、スイッチ
FPGAとASICの比較
| 比較項目 | FPGA | ASIC |
|---|---|---|
| 開発期間 | 短い(週〜月) | 長い(年単位) |
| 初期コスト | 低い | 高い(数億円〜) |
| 大量生産時のコスト | 高い | 低い |
| 電力効率 | 低い | 高い |
| 変更の柔軟性 | 高い | なし |
| 適した生産量 | 少量〜中量 | 大量 |
主要企業
| 分野 | 企業 | 備考 |
|---|---|---|
| FPGA | AMD(Xilinx買収) | FPGA市場1位 |
| FPGA | Intel(Altera買収) | FPGA市場2位 |
| AI ASIC | TPU(自社データセンター用) | |
| AI ASIC | Amazon | Inferentia, Trainium |
| AI ASIC | Broadcom | Google・Meta向けカスタムチップ |
注意
GoogleのTPUやAmazonのInferentiaなど、BigTechは自社用AI ASICを開発しています。理論上、特定のAIモデルに最適化したASICはGPUより効率的です。しかし、AIモデルは急速に進化 しており、柔軟性のないASICはすぐに陳腐化するリスクがあります。当面はGPUの汎用性が優位と見られています。
プロセッサ選択の判断基準
どのプロセッサを使うべきかは、用途によって決まります。
| 用途 | 最適なプロセッサ | 理由 |
|---|---|---|
| 一般的なPC作業 | CPU | 多様なタスクを柔軟に処理 |
| ゲーム | CPU + GPU | CPUでゲームロジック、GPUで描画 |
| AI学習(トレーニング) | GPU | 大量の並列計算が必要 |
| AI推論(本番環境) | GPU or ASIC | 効率重視ならASIC |
| スマートフォン | SoC | 省電力・小型化が必須 |
| 試作・開発 | FPGA | 柔軟に変更可能 |
| 暗号通貨マイニング | ASIC | 最高効率が求められる |
投資視点でのまとめ
企業別ポジショニング
| 企業 | 主力製品 | 強み | リスク |
|---|---|---|---|
| NVIDIA | AI GPU | CUDAエコシステム、独占的シェア | 高いバリュエーション |
| AMD | CPU, GPU | コスパ、FPGA統合 | AI GPUでNVIDIAに大差 |
| Intel | CPU | ブランド、自社工場 | 製造プロセス遅れ |
| Qualcomm | モバイルSoC | 5G特許、Snapdragon | スマホ市場の成熟 |
| Broadcom | カスタムASIC | BigTech向け設計力 | 顧客集中リスク |
市場トレンド
- AI GPU需要は継続:ChatGPT以降、企業のAI投資は加速
- CPU市場は成熟:成長率は低いが安定
- エッジAI:スマホやIoTでのAI処理需要が増加(SoC、FPGA)
- カスタムチップ:BigTechは自社ASIC開発を加速
まとめ
本記事では、プロセッサの5つのタイプを解説しました。
ポイント:
- CPU:汎用的な逐次処理、PC・サーバーの頭脳
- GPU:並列処理特化、AI時代の主役
- SoC:複数機能を統合、スマホに必須
- FPGA:書き換え可能、試作・少量生産向け
- ASIC:特定用途専用、最高効率だが柔軟性なし
AI時代のキーポイント:
- GPUはAI学習に最適(並列処理)
- NVIDIAはCUDAエコシステムで競合を圧倒
- ASICは効率的だがAIの進化速度に追いつけないリスク
次回は「サプライチェーンを読み解く - 設計から製造まで」と題して、半導体がどのように作られているのか、そのバリューチェーンを解説します。TSMC、ASML、Armなど、投資家が知るべき重要企業が登場します。
シリーズ目次
- 半導体とは何か - 1兆ドル市場の全体像
- 半導体の種類を理解する - ロジック・メモリ・アナログ・パワー
- プロセッサの世界 - CPU・GPU・SoC・FPGA・ASIC(本記事)
- サプライチェーンを読み解く - 設計から製造まで
- ビジネスモデル3類型 - IDM・ファブレス・ファウンドリ
- 主要企業徹底解説 - 誰が何を支配しているか
- AI時代の半導体と地政学 - 投資家が知るべきリスク





