
はじめに
前回は、レアアース市場の全体像を解説しました。17種類の金属元素の総称であるレアアースが、EVや風力発電、半導体など現代のハイテク産業に不可欠であることを学びました。
しかし、17元素すべてが同じように重要なわけではありません。ネオジム(Nd)は世界最強の永久磁石の主成分として最も需要が大きく、ジスプロシウム(Dy)は希少で高価なため戦略的重要性が極めて高い——このように、各元素には異なる特性と役割があります。
第2回となる本記事では、17元素それぞれの特性と用途を詳しく解説し、投資家として押さえるべきポイントを整理します。
17元素の全体像
レアアース17元素一覧
レアアースは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、そしてランタノイド15元素の合計17元素で構成されます。

| 分類 | 元素(記号) | 原子番号 |
|---|---|---|
| 軽希土類(LREE) | ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm) | 57-62 |
| 重希土類(HREE) | ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu) | 63-71 |
| その他 | スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y) | 21, 39 |
軽希土類と重希土類の違い
| 特性 | 軽希土類(LREE) | 重希土類(HREE) |
|---|---|---|
| 存在量 | 比較的豊富 | 希少 |
| 価格 | 安価($2〜100/kg) | 高価($100〜2,000/kg) |
| 産地 | 世界各地に分布 | 中国南部に集中 |
| 代表的用途 | 磁石本体、触媒、研磨剤 | 磁石の耐熱性向上、蛍光体 |
注意
重希土類(特にジスプロシウム、テルビウム)は、中国南部のイオン吸着型鉱床にほぼ限定されて産出します。世界の重希土類生産の90%以上を中国が独占しており、これが経済安全保障上の最大のリスクとなっています。
軽希土類(LREE)6元素の詳細
軽希土類は比較的豊富に存在し、レアアース需要の大部分を占めます。特にネオジムは最も重要な元素です。

ランタン(La):触媒の王様
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原子番号 | 57 |
| 価格目安 | 約$2/kg(酸化物) |
| 主な用途 | 石油精製触媒、Ni-MH電池、光学ガラス |
ランタンは石油精製プロセスで使われる流動接触分解(FCC)触媒の主成分です。世界の石油精製の約40%でこの触媒が使用されています。
また、ハイブリッド車のニッケル水素電池(Ni-MH)の負極材料としても重要です。トヨタ・プリウスなどのHV車に搭載されています。
セリウム(Ce):最も豊富なレアアース
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原子番号 | 58 |
| 価格目安 | 約$2/kg(酸化物) |
| 主な用途 | 研磨剤、排ガス触媒、UV吸収ガラス |
セリウムはレアアースの中で最も存在量が多い元素です。需要の約50%は研磨剤(酸化セリウム)として使用され、半導体ウェハーやスマートフォンの画面ガラスの研磨に不可欠です。
自動車の三元触媒(排ガス浄化装置)にも使われ、CO・HC・NOxを無害化します。
プラセオジム(Pr):ネオジムのパートナー
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原子番号 | 59 |
| 価格目安 | 約$90/kg(酸化物) |
| 主な用途 | ネオジム磁石の添加剤、航空機エンジン合金 |
プラセオジムは通常、ネオジムと一緒に抽出され、NdPr(ジジム)として取引されることが多いです。ネオジム磁石の性能を安定させる添加剤として使用されます。
航空機エンジンの高温合金にも添加され、耐久性を向上させます。
ネオジム(Nd):世界最強の磁石
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原子番号 | 60 |
| 価格目安 | 約$100/kg(酸化物) |
| 主な用途 | 永久磁石(NdFeB)、レーザー |
ネオジムはレアアースの中で最も重要な元素です。ネオジム・鉄・ホウ素(NdFeB)で構成される永久磁石は、同サイズのフェライト磁石の10倍以上の磁力を持ちます。
| 製品 | ネオジム磁石使用量 |
|---|---|
| EV(電気自動車) | 1〜2kg/台 |
| 風力タービン(大型) | 数百kg〜数トン/基 |
| エアコン | 50〜200g/台 |
| スマートフォン | 数g/台 |
| ハードディスク | 10〜20g/台 |
世界のネオジム需要の約90%が永久磁石向けです。
プロメチウム(Pm):唯一の放射性元素
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原子番号 | 61 |
| 価格目安 | 非常に高価(希少) |
| 主な用途 | 蛍光塗料、原子力電池 |
プロメチウムは自然界にほぼ存在しない放射性元素で、原子炉で人工的に生成されます。産業用途は限定的で、投資の観点からは重要度は低いです。
サマリウム(Sm):高温用磁石
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原子番号 | 62 |
| 価格目安 | 約$3/kg(酸化物) |
| 主な用途 | サマリウムコバルト磁石、がん治療 |
サマリウムコバルト(SmCo)磁石は、ネオジム磁石より高温耐性に優れ(350℃まで)、航空宇宙や軍事用途で使用されます。ただし、コバルトが高価なため、コスト面ではネオジム磁石に劣ります。
重希土類(HREE)の詳細
重希土類は希少で高価であり、特にジスプロシウムとテルビウムは戦略的重要性が極めて高いです。

ジスプロシウム(Dy):最重要の重希土類
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原子番号 | 66 |
| 価格目安 | 約$350/kg(酸化物) |
| 主な用途 | ネオジム磁石の耐熱性向上 |
ジスプロシウムは投資家が最も注目すべき元素です。ネオジム磁石に数%添加することで、高温での磁力低下(減磁)を防ぎます。
| 用途 | Dy添加の必要性 |
|---|---|
| EV駆動モーター | 必須(高温環境) |
| 風力タービン | 必要(屋外環境) |
| エアコン | 必要(コンプレッサー高温) |
| スマートフォン | 不要(低温環境) |
EVモーターは走行中に100℃以上に達するため、ジスプロシウムなしでは性能を維持できません。
ポイント
世界のジスプロシウム生産の99%以上が中国です。2010年の輸出規制時には価格が20倍以上に急騰しました。各国がジスプロシウムの使用量削減や代替技術の開発を進めているのは、この供給リスクが理由です。
テルビウム(Tb):さらなる高性能化
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原子番号 | 65 |
| 価格目安 | 約$2,000/kg(酸化物) |
| 主な用途 | 高性能磁石の添加剤、蛍光体 |
テルビウムはレアアースの中で最も高価な元素の一つです。ジスプロシウムと同様にネオジム磁石の耐熱性を向上させますが、より高い性能が求められる場合に使用されます。
緑色蛍光体としてもLEDや蛍光灯に使用されます。
ユウロピウム(Eu):赤色蛍光体
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原子番号 | 63 |
| 価格目安 | 約$150/kg(酸化物) |
| 主な用途 | 赤色蛍光体、ユーロ紙幣の偽造防止 |
ユウロピウムは赤色発光の蛍光体として、ブラウン管TV時代から使用されてきました。現在はLEDの赤色成分として使われます。
また、ユーロ紙幣の偽造防止インクにも含まれています。
ガドリニウム(Gd):医療の必需品
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原子番号 | 64 |
| 価格目安 | 約$30/kg(酸化物) |
| 主な用途 | MRI造影剤、原子炉制御棒 |
ガドリニウムは磁性が非常に強く、MRI検査の造影剤として世界中で使用されています。年間数百万件のMRI検査で使用され、医療分野での需要は安定しています。
原子炉の制御棒にも使用され、中性子を吸収して核分裂を制御します。
イットリウム(Y):LED照明の要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原子番号 | 39 |
| 価格目安 | 約$10/kg(酸化物) |
| 主な用途 | LED蛍光体、YAGレーザー、耐熱セラミックス |
イットリウムは厳密にはランタノイドではありませんが、化学的性質が似ているためレアアースに分類されます。
白色LEDの蛍光体(YAG:イットリウム・アルミニウム・ガーネット)として、照明のLED化とともに需要が拡大しています。
その他の重希土類
| 元素 | 主な用途 | 備考 |
|---|---|---|
| ホルミウム(Ho) | レーザー、磁石 | 医療用レーザーに使用 |
| エルビウム(Er) | 光ファイバー増幅器 | 通信インフラに不可欠 |
| ツリウム(Tm) | レーザー、X線源 | 医療・研究用途 |
| イッテルビウム(Yb) | レーザー、応力センサー | 産業用レーザー |
| ルテチウム(Lu) | PET検出器、触媒 | 最も高価な希土類の一つ |
| スカンジウム(Sc) | アルミ合金、燃料電池 | 航空機・スポーツ用品 |
ネオジム磁石の仕組み
レアアース需要の約40%を占める永久磁石。その中心であるネオジム磁石(NdFeB磁石)の仕組みを理解しましょう。

磁石の組成
| 成分 | 含有率 | 役割 |
|---|---|---|
| ネオジム(Nd) | 約29% | 磁力の源 |
| 鉄(Fe) | 約66% | 磁気構造の基盤 |
| ホウ素(B) | 約1% | 結晶構造の安定化 |
| ジスプロシウム/テルビウム | 0〜4% | 耐熱性向上 |
磁力の比較
| 磁石の種類 | 最大エネルギー積 | 相対性能 |
|---|---|---|
| ネオジム磁石(NdFeB) | 512 kJ/m³ | 100% |
| サマリウムコバルト磁石(SmCo) | 240 kJ/m³ | 47% |
| アルニコ磁石 | 80 kJ/m³ | 16% |
| フェライト磁石 | 40 kJ/m³ | 8% |
ネオジム磁石はフェライト磁石の12倍以上の磁力を持ち、「世界最強の永久磁石」と呼ばれます。
なぜジスプロシウムが必要か
ネオジム磁石の弱点は高温での磁力低下です。温度が上がると磁力が弱まり、150℃を超えると急激に性能が落ちます。
ジスプロシウムを添加することで、この「キュリー温度」を引き上げ、高温環境でも磁力を維持できるようになります。
| 用途 | 動作温度 | Dy添加量 |
|---|---|---|
| EVモーター | 100〜150℃ | 2〜4% |
| 風力発電機 | 〜80℃ | 1〜2% |
| エアコン | 〜100℃ | 1〜2% |
| HDD | 室温 | 0% |
元素別の価格と希少性
投資家にとって重要な、各元素の価格と希少性の関係を見てみましょう。

価格帯別の分類
| カテゴリ | 元素 | 価格帯 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 戦略的重要資源 | Tb, Dy, Eu | $150〜2,000/kg | 希少・高価・中国依存 |
| 需要急増 | Nd, Pr | $90〜100/kg | EV・風力で需要拡大 |
| コモディティ | Ce, La | $2/kg | 豊富・安価・安定供給 |
| 特殊用途 | Ho, Er, Tm, Yb, Lu | 様々 | 限定的用途 |
価格変動の特徴
レアアース価格は変動が非常に激しいことで知られています。
| 時期 | ネオジム価格 | 要因 |
|---|---|---|
| 2010年以前 | $30/kg | 安定期 |
| 2011年ピーク | $300/kg | 中国輸出規制 |
| 2015年 | $40/kg | 規制緩和・需要減 |
| 2022年ピーク | $145/kg | EV需要・供給制約 |
| 2024年 | $100/kg | 需給バランス調整 |
注意
レアアース価格は、中国の政策、需給バランス、地政学リスクによって大きく変動します。2010年の輸出規制時には、一部の元素が10〜20倍に急騰しました。投資家はこのボラティリティを理解しておく必要があります。
産業別のレアアース需要
どの産業がどの元素を必要としているのか、需要構造を理解しましょう。

産業別需要構成
| 産業 | 構成比 | 主な使用元素 |
|---|---|---|
| 永久磁石 | 40% | Nd, Pr, Dy, Tb |
| 触媒 | 20% | La, Ce |
| 研磨剤 | 15% | Ce |
| ガラス・セラミックス | 10% | La, Ce, Y |
| 蛍光体 | 5% | Y, Eu, Tb |
| その他(電池・合金) | 10% | La, Ce, Sc |
成長セクター
今後の成長が期待されるセクターは以下の通りです:
- EV(電気自動車):ネオジム、ジスプロシウム需要の最大ドライバー
- 風力発電:大型化に伴いネオジム需要増加
- ロボット・FA:精密モーターでの需要拡大
- データセンター:冷却システムでの需要
投資家が押さえるべきポイント
最重要元素:ネオジムとジスプロシウム
投資の観点から最も注目すべきは、ネオジム(Nd)とジスプロシウム(Dy)の2つです。
| 元素 | 重要性 | 投資観点 |
|---|---|---|
| ネオジム | 需要量最大 | EV・風力の成長に連動 |
| ジスプロシウム | 供給リスク最大 | 中国依存度99%、代替困難 |
注目すべき動向
- ジスプロシウム使用量削減技術:粒界拡散法などで使用量を減らす取り組み
- レアアースフリー磁石:テスラなどが開発中
- リサイクル技術:都市鉱山からの回収
- 代替産地開発:オーストラリア、米国、南鳥島
まとめ
本記事では、レアアース17元素の特性と用途を詳しく解説しました。
ポイント:
- 17元素は「軽希土類(LREE)」6元素と「重希土類(HREE)」11元素に分類
- ネオジム(Nd):世界最強の永久磁石の主成分、需要量最大
- ジスプロシウム(Dy):磁石の耐熱性向上に不可欠、供給リスク最大
- 軽希土類は比較的安価($2〜100/kg)、重希土類は高価($100〜2,000/kg)
- 永久磁石が需要の約40%を占める最大セクター
- 価格変動が激しく、中国の政策に大きく左右される
次回は「サプライチェーンと中国支配 - 地政学リスクの実態」と題して、レアアースの採掘から製品化までのサプライチェーンと、中国支配の構造を詳しく解説します。
シリーズ目次
- レアアースの全体像 - 210億ドル市場の構造を読み解く
- レアアースの種類と用途 - 17元素の役割を理解する(本記事)
- サプライチェーンと中国支配 - 地政学リスクの実態
- 需要を牽引する産業 - EV・風力発電・半導体・防衛
- 脱中国依存の動き - 日米豪欧の戦略





