Wallstreet NoteWallstreet Note

【半導体マスター講座 第4回】サプライチェーンを読み解く - 設計から製造まで

半導体のサプライチェーンを川上から川下まで解説。EDA、IP、ファウンドリ、製造装置、OSATの役割と、TSMCやASMLなど投資家が知るべき重要企業を紹介します。

13分で読めます
【半導体マスター講座 第4回】サプライチェーンを読み解く - 設計から製造まで
半導体マスター講座
4 / 7
7回の記事一覧

はじめに

前回まではプロセッサの種類(CPU、GPU、SoCなど)について解説しました。今回は視点を変えて、半導体がどのように作られるのか——そのサプライチェーン(供給網)を見ていきます。

半導体のサプライチェーンは、世界で最も複雑な産業構造の一つです。1つのチップが完成するまでに、設計ツール → IP → 設計 → 材料 → 製造装置 → 製造 → パッケージング と、多くの専門企業が関わります。

このサプライチェーンを理解することで、なぜTSMCが重要なのか なぜASMLが独占的なのか、そして 地政学的リスクがどこにあるのかが見えてきます。


サプライチェーンの全体像

半導体のサプライチェーンは、「川上」から「川下」へと流れます。

サプライチェーン全体像

川上から川下への流れ

【川上:設計支援】
  ├─ EDAツール(設計自動化)
  └─ IP(設計資産)
      ↓
【川中:設計・製造】
  ├─ ファブレス(設計専業)
  ├─ 材料(ウエハー、化学品)
  ├─ 製造装置(露光、エッチング)
  └─ ファウンドリ(製造専業)
      ↓
【川下:後工程・最終製品】
  ├─ OSAT(パッケージング・テスト)
  └─ 最終製品(スマホ、PC、サーバー)

各工程の主要プレイヤー

工程役割主要企業市場構造
EDA設計自動化ツールSynopsys, Cadence3社寡占
IP設計資産・ライセンスArmほぼ独占
ファブレス設計専業NVIDIA, AMD, Qualcomm競争的
材料ウエハー、化学品信越化学, SUMCO日本企業強い
製造装置露光、成膜、エッチングASML, Applied Materials寡占
ファウンドリ受託製造TSMC, SamsungTSMC独走
OSATパッケージング・テストASE, Amkor競争的

EDA & IP - 設計の土台

EDA & IP

EDA(Electronic Design Automation)とは?

EDA は、半導体の回路設計を自動化するソフトウェアです。建築に例えると「CADソフト」に相当します。

現代の半導体には数十億個のトランジスタ が搭載されています。これを人間が手作業で設計するのは不可能です。EDAツールがあるからこそ、複雑なチップを設計できるのです。

EDAの主な機能

機能内容
回路設計論理回路を記述・設計
シミュレーション動作を仮想的に検証
配置配線トランジスタの物理的配置を最適化
検証設計ミスがないか確認

EDA市場の寡占構造

企業シェア(推定)強み
Synopsys約35%業界最大手、包括的ツール群
Cadence約30%シミュレーション、カスタム設計
Siemens EDA約15%旧Mentor、PCB設計

3社で約80% を占める寡占市場です。新規参入は極めて困難で、顧客(ファブレス企業)は長年のツールに依存しています。

IP(Intellectual Property)とは?

IP は、半導体設計における「再利用可能な設計資産」です。自社でゼロから設計する代わりに、IPをライセンスで購入 して組み込みます。

IPの例

  • CPUコア:Armが設計したCPUアーキテクチャ
  • GPU:Imagination Technologiesのグラフィックスコア
  • インターフェース:USB、PCIeなどの標準規格回路

Armの圧倒的シェア

Arm は、モバイル・IoT向けCPUコアでほぼ独占的な地位 を築いています。

分野Armシェア
スマートフォン99%以上
IoTデバイス90%以上
データセンター急成長中(AWS Gravitonなど)

Apple、Qualcomm、Samsungなど、ほぼすべてのスマホSoCがArmアーキテクチャを採用しています。

ポイント

投資のポイント:EDA・IPは高利益率ビジネス

EDA・IP企業は、ソフトウェア・ライセンスビジネスのため営業利益率が非常に高い(30〜40%)です。また、顧客のスイッチングコストが高く、安定した収益が見込めます。Synopsys、Cadence、Armはいずれも優良銘柄として知られています。


ファウンドリと製造工程

ファウンドリの製造工程

ファウンドリとは?

ファウンドリ は、他社が設計した半導体を受託製造する専業メーカー です。自社製品を持たず、製造に特化しています。

前工程(ウエハー製造)

半導体製造の核心は「前工程」と呼ばれるウエハー上での回路形成です。

前工程の6ステップ

ステップ内容ポイント
1. ウエハー準備シリコンインゴットをスライス直径300mm、厚さ0.75mm
2. 成膜表面に薄い膜を形成酸化膜、金属膜など
3. 露光(リソグラフィ)光で回路パターンを転写最重要工程
4. エッチング不要部分を削り取るプラズマで精密加工
5. イオン注入電気的性質を変える導体/絶縁体を制御
6. 洗浄・検査不純物除去、品質チェック歩留まり向上の鍵

この工程を数百回繰り返して、1枚のウエハー上に数百個のチップを形成します。

ファウンドリ市場のシェア

企業シェア(2024年)特徴
TSMC約67%最先端で独走
Samsung約8%2位だが大差
GlobalFoundries約6%成熟プロセス特化
UMC約5%成熟プロセス
SMIC約5%中国最大

TSMCが圧倒的な1位 で、特に最先端プロセス(7nm以下)ではシェア90%以上 を握っています。


ASML - 最先端製造の「門番」

ASML EUV

なぜASMLが重要なのか?

ASML はオランダの半導体製造装置メーカーで、EUV(極端紫外線)露光装置を世界で唯一製造 しています。

露光装置は、回路パターンをウエハーに転写する装置です。半導体の微細化(7nm以下)には、EUV露光が不可欠 です。

EUVの技術的特徴

項目内容
波長13.5nm(DUVの約10分の1)
微細化7nm以下の製造に必須
価格1台約200億円
構成部品トラック約40台分

ASMLの市場独占

市場ASMLシェア
EUV露光装置100%
DUV露光装置約85%

EUV装置は世界でASMLしか作れません。特許網、技術蓄積、サプライヤー網により、競合参入は事実上不可能 です。

ASMLの顧客

顧客用途
TSMC最大顧客、最先端チップ製造
Samsungファウンドリ、メモリ
Intel自社工場向け

注意

ASMLは地政学的にも重要

米国は中国へのEUV装置輸出を禁止しています。これにより、中国は最先端半導体(7nm以下)を製造できません。ASMLは単なる企業を超えて、国家安全保障の要 になっています。


製造装置メーカー

ASMLだけでなく、半導体製造には多くの装置が必要です。

工程主要企業概要
露光ASMLEUV・DUV装置
成膜(CVD)Applied Materials, Lam Research薄膜形成
エッチングLam Research, Tokyo Electronパターン形成
洗浄SCREEN, Tokyo Electron不純物除去
検査KLA欠陥検出
イオン注入Applied Materials電気特性制御

製造装置市場のシェア

企業拠点シェア(推定)
Applied Materials米国約20%
ASMLオランダ約18%
Lam Research米国約13%
Tokyo Electron日本約13%
KLA米国約8%

OSAT - 後工程の重要性

OSAT後工程

後工程とは?

ウエハー上に回路を形成する「前工程」に対し、チップを製品として仕上げる「後工程」 があります。

工程内容
ダイシングウエハーを個別チップに切断
ボンディングチップと端子を接続
封止(パッケージング)樹脂で保護・成形
テスト動作確認・品質検査

OSATとは?

OSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test) は、後工程を専門に行う受託企業です。

企業拠点シェア
ASE Group台湾約25%
Amkor米国約15%
JCET中国約10%

先進パッケージングの台頭

近年、微細化の限界 を補うため、パッケージング技術が注目されています。

技術内容
チップレット複数チップを1パッケージに統合AMD EPYC
2.5D積層シリコンインターポーザーで接続NVIDIA H100
3D積層チップを垂直方向に積むHBM

TSMCのCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)は、AI向けGPUに必須の先進パッケージング技術です。NVIDIAのH100/H200はすべてCoWoSで製造されています。

ポイント

投資のポイント:後工程の価値上昇

従来、後工程は「低付加価値」と見なされていました。しかし先進パッケージングにより、後工程の重要性と利益率が上昇 しています。TSMCは先進パッケージングを内製化しており、ファウンドリとOSATの境界が曖昧になっています。


チョークポイント(ボトルネック)

チョークポイント

半導体サプライチェーンには、特定の企業・地域に集中するチョークポイント(ボトルネック) が存在します。

4つの主要チョークポイント

ポイント内容リスク
EDA(米国)Synopsys, Cadenceが支配米国の輸出規制
EUV装置(オランダ)ASMLが100%独占輸出規制、故障リスク
最先端製造(台湾)TSMCが7nm以下の67%を製造台湾有事
材料(日本)フォトレジスト、ウエハー供給途絶リスク

台湾リスクの深刻さ

TSMCは世界の最先端半導体の約67% を製造しています。もし台湾で紛争が起きれば:

  • スマートフォン生産が停止
  • AI GPU供給が途絶
  • 自動車、データセンターに甚大な影響

各国は対策として:

  • 米国:CHIPS法でTSMCアリゾナ工場誘致(520億ドル補助)
  • 日本:TSMC熊本工場誘致(1兆円超の補助)
  • 欧州:欧州チップ法で域内製造強化

しかし、最先端製造を短期間で分散させることは困難です。


投資視点でのサプライチェーン分析

各工程の投資魅力度

工程成長性利益率参入障壁代表銘柄
EDASynopsys, Cadence
IPArm
ファブレスNVIDIA, AMD
製造装置ASML, Applied Materials
ファウンドリTSMC
OSATASE, Amkor

注目ポイント

  1. EDA・製造装置は寡占で高利益:参入障壁が高く、安定成長
  2. ファウンドリはTSMC一強:設備投資負担は大きいが独占的地位
  3. ファブレスは競争激しい:成長企業(NVIDIA)と衰退企業の差が大きい
  4. OSATは変革期:先進パッケージングで付加価値向上の機会

まとめ

本記事では、半導体サプライチェーンの全体像を解説しました。

ポイント:

  • EDA・IP:設計の土台、Synopsys・Cadence・Armが寡占
  • ファウンドリ:TSMCが最先端で独走(シェア67%)
  • 製造装置:ASMLがEUVを100%独占、地政学的に重要
  • OSAT:先進パッケージングで価値上昇中

チョークポイント:

  • EUV装置(ASML)、最先端製造(TSMC)に集中
  • 台湾リスクは半導体投資の最大のリスク要因

次回は「ビジネスモデル3類型 - IDM・ファブレス・ファウンドリ」と題して、半導体企業のビジネスモデルの違いを解説します。なぜIntelは自社工場を持ち、NVIDIAは持たないのか——その戦略的理由を探ります。


シリーズ目次

  1. 半導体とは何か - 1兆ドル市場の全体像
  2. 半導体の種類を理解する - ロジック・メモリ・アナログ・パワー
  3. プロセッサの世界 - CPU・GPU・SoC・FPGA・ASIC
  4. サプライチェーンを読み解く - 設計から製造まで(本記事)
  5. ビジネスモデル3類型 - IDM・ファブレス・ファウンドリ
  6. 主要企業徹底解説 - 誰が何を支配しているか
  7. AI時代の半導体と地政学 - 投資家が知るべきリスク
この記事が役に立ったらシェアしてください
Your Name
著者

Your Name

投資とビジネスに関する情報を発信しています。初心者にもわかりやすく、実践的な知識をお届けします。

@yourhandle
半導体マスター講座
4 / 7
7回の記事一覧