はじめに
前回はビジネスモデルの3類型(IDM、ファブレス、ファウンドリ)を解説しました。今回は、半導体業界の主要8社 を個別に分析し、各社の強み、競争関係、投資ポイントを明らかにします。
半導体投資で成功するには、企業の表面的な業績だけでなく、なぜその企業が強いのか、 どのようなリスクがあるのか を理解する必要があります。
本記事を読めば、NVIDIA、AMD、Intel、Qualcomm、Broadcom、Micron、TSMC、ASMLの8社について、投資判断に必要な知識が身につきます。
半導体業界の勢力図
まず、業界全体の構造を把握しましょう。

分野別の支配者
| 分野 | 支配的企業 | シェア |
|---|
| AI GPU | NVIDIA | 90%超 |
| PC向けCPU | Intel, AMD | 60:40 |
| サーバーCPU | Intel, AMD | 50:30 |
| モバイルSoC | Qualcomm, Apple | 高シェア |
| メモリ(DRAM/NAND) | Samsung, SK Hynix, Micron | 3社寡占 |
| ファウンドリ | TSMC | 67% |
| EUV露光装置 | ASML | 100% |
| EDA | Synopsys, Cadence | 3社寡占 |
半導体業界は寡占構造 が特徴です。各分野で1〜3社が市場を支配しており、新規参入は極めて困難です。
NVIDIA - AI時代の絶対王者

企業概要
| 項目 | 内容 |
|---|
| 設立 | 1993年 |
| 本社 | 米国カリフォルニア州 |
| CEO | ジェンスン・フアン(共同創業者) |
| ビジネスモデル | ファブレス |
| 2024年売上 | 約609億ドル |
| 時価総額 | 約3兆ドル(世界トップクラス) |
NVIDIAの強さ
1. AI GPUで90%超のシェア
NVIDIAはAI向けGPU市場で圧倒的なシェア を持っています。データセンター向けGPU(H100、H200、Blackwell)は需要に供給が追いつかない状態が続いています。
2. CUDAエコシステム
NVIDIAの最大の強みはCUDA(GPU向けプログラミング環境)です。
| CUDAの強み | 内容 |
|---|
| 歴史 | 2006年から約20年の蓄積 |
| 開発者 | 世界中のAI研究者がCUDAに習熟 |
| フレームワーク | PyTorch、TensorFlowがCUDA最適化 |
| ロックイン | 他社GPUへの乗り換えコストが高い |
3. ハード+ソフトの統合
NVIDIAは単なるハードウェア企業ではありません。GPU + CUDA + AIライブラリ + 開発ツールを統合したエコシステム を提供しています。
製品ロードマップ
| 世代 | 製品 | 特徴 |
|---|
| Hopper | H100 | 現在の主力 |
| Hopper | H200 | HBM3E搭載、H100の改良版 |
| Blackwell | B200 | 次世代、AI性能2倍以上 |
| Blackwell | GB200 | GPU2基+CPU1基のスーパーチップ |
投資ポイント
| 項目 | 評価 |
|---|
| 成長性 | ◎(AI需要で爆発的成長) |
| 競争優位性 | ◎(CUDAによるロックイン) |
| リスク | バリュエーションの高さ、競合の追い上げ |
| 適した投資家 | 成長株投資家、AI テーマ投資 |
ポイント
NVIDIAの時価総額は2024年に一時世界1位にAppleやMicrosoftを抜いて世界1位になる場面もありました。1993年創業のGPU企業が、わずか30年で世界最大の企業になったのは驚異的です。
AMD vs Intel - CPU戦争

AMD - 挑戦者からの躍進
| 項目 | 内容 |
|---|
| 設立 | 1969年 |
| CEO | リサ・スー(2014年〜) |
| ビジネスモデル | ファブレス |
| 2024年売上 | 約258億ドル(過去最高) |
AMDの強み
| 強み | 内容 |
|---|
| Zenアーキテクチャ | リサ・スーCEO主導で開発、性能大幅向上 |
| コストパフォーマンス | 同等性能でIntelより安い |
| マルチコア性能 | サーバー向けEPYCが好評 |
| TSMC活用 | 最先端プロセスを利用可能 |
AMDの課題
- AI向けGPU(Instinct)はNVIDIAに大きく後れ
- ソフトウェアエコシステム(ROCm)がCUDAに劣る
Intel - 王者の苦戦
| 項目 | 内容 |
|---|
| 設立 | 1968年 |
| CEO | パット・ゲルシンガー(2021年〜) |
| ビジネスモデル | IDM |
| 2024年売上 | 約540億ドル(前年比減) |
Intelの課題
| 課題 | 内容 |
|---|
| 製造プロセス遅れ | 10nm→7nmで躓き、TSMCに抜かれる |
| シェア低下 | サーバー市場でAMDに猛追される |
| AI市場出遅れ | NVIDIAに大きく後れ |
Intel復活の鍵:IDM 2.0
| 戦略 | 内容 |
|---|
| Intel 18A | 2nm相当の新プロセスで巻き返し |
| IFS | ファウンドリ事業で他社製造を受託 |
| CHIPS法 | 米政府から数十億ドルの補助金 |
シェア推移
| 市場 | Intel(2020年) | Intel(2024年) | AMD(2020年) | AMD(2024年) |
|---|
| PC向けCPU | 80% | 60% | 20% | 40% |
| サーバーCPU | 90% | 50% | 10% | 30% |
AMDが着実にシェアを拡大し、Intelを追い詰めています。
投資ポイント比較
| 項目 | AMD | Intel |
|---|
| 成長性 | ○ | △ |
| バリュエーション | 高い | 割安 |
| リスク | NVIDIAとの競争 | 復活できるか不透明 |
| 適した投資家 | 成長株 | バリュー株、逆張り |

Qualcomm - モバイルの支配者
| 項目 | 内容 |
|---|
| 設立 | 1985年 |
| ビジネスモデル | ファブレス |
| 2024年売上 | 約390億ドル |
Qualcommの強み
| 強み | 内容 |
|---|
| Snapdragon | Androidスマホの大半に搭載 |
| 5G特許 | 標準必須特許(SEP)を大量保有 |
| 二本柱ビジネス | QCT(半導体販売)+ QTL(ライセンス収入) |
ビジネスモデルの特徴
┌─────────────────────────────────┐
│ Qualcomm │
├────────────────┬────────────────┤
│ QCT │ QTL │
│ (半導体販売) │ (ライセンス) │
│ Snapdragon │ 5G特許 │
│ 売上の大半 │ 高利益率 │
└────────────────┴────────────────┘
スマホ1台につき、チップ販売収入と 特許ライセンス収入の両方 を得られるビジネスモデルです。
| 項目 | 内容 |
|---|
| 設立 | 1991年(現在の形態は2016年〜) |
| CEO | ホック・タン |
| ビジネスモデル | ファブレス |
| 2024年売上 | 約500億ドル |
Broadcomの強み
| 強み | 内容 |
|---|
| M&A戦略 | ニッチ市場No.1企業を買収・統合 |
| 多角化 | Wi-Fi、Bluetooth、ネットワーク、ストレージ |
| カスタムAIチップ | Google、Meta向けにカスタム設計 |
| 高利益率 | 買収後のコスト削減で利益率向上 |
Broadcomの買収履歴
- Avago(2016年、Broadcomを買収して社名変更)
- Brocade(2017年)
- CA Technologies(2018年)
- Symantec事業部(2019年)
- VMware(2023年、約690億ドル)
投資ポイント比較
| 項目 | Qualcomm | Broadcom |
|---|
| 成長性 | ○ | ○ |
| 安定性 | ○(特許収入) | ◎(多角化) |
| 配当 | ○ | ◎(高配当) |
| リスク | スマホ市場の成熟 | M&A統合リスク |
TSMC & ASML - 製造を支配する2社

TSMC - ファウンドリの絶対王者
| 項目 | 内容 |
|---|
| 設立 | 1987年 |
| 本社 | 台湾新竹市 |
| ビジネスモデル | ファウンドリ |
| 2024年売上 | 約900億ドル |
| シェア | 67%(最先端は90%超) |
TSMCの強み
| 強み | 内容 |
|---|
| 技術力 | 最先端プロセスで業界をリード |
| 歩留まり | 製造の成功率が極めて高い |
| 顧客との信頼 | Apple、NVIDIA等と長期関係 |
| 設備投資 | 年間300億ドル以上を投資 |
TSMCの顧客
| 顧客 | 製品 |
|---|
| Apple | A/Mシリーズチップ |
| NVIDIA | AI GPU(H100、Blackwell) |
| AMD | Ryzen、EPYC |
| Qualcomm | Snapdragon |
世界のテック大手がTSMCに依存 しています。
技術ロードマップ
| 年 | プロセス | 特徴 |
|---|
| 2023 | 3nm | 量産中 |
| 2025 | 2nm | GAA(Gate-All-Around)導入 |
| 2026 | 1.6nm相当 | A16プロセス |
ASML - EUV装置の独占者
| 項目 | 内容 |
|---|
| 設立 | 1984年 |
| 本社 | オランダ・フェルトホーフェン |
| ビジネスモデル | 製造装置メーカー |
| 2024年売上 | 約300億ユーロ |
| EUVシェア | 100%(完全独占) |
ASMLの独占の理由
| 要因 | 内容 |
|---|
| 技術的難易度 | EUV光源の実現に20年以上 |
| 部品数 | 1台10万点以上の精密部品 |
| 特許網 | 競合の参入を阻止 |
| 価格 | 1台約200億円 |
地政学的重要性
- 対中輸出禁止:米国の要請でEUV装置の中国輸出を禁止
- 国家安全保障:ASMLなしに最先端半導体は作れない
- チョークポイント:サプライチェーンの急所
TSMCとASMLの共生関係
ASML ──→ EUV装置 ──→ TSMC ──→ 最先端チップ ──→ Apple, NVIDIA等
供給 製造 供給
両社は相互依存 の関係にあります。TSMCはASMLの最大顧客であり、ASMLなしにTSMCの最先端製造は不可能です。
投資ポイント比較
| 項目 | TSMC | ASML |
|---|
| 成長性 | ○ | ○ |
| 安定性 | ◎ | ◎ |
| 独占的地位 | ◎(67%シェア) | ◎(100%シェア) |
| リスク | 台湾地政学リスク | 需要変動 |
| 配当 | ○ | ○ |
注意
台湾リスクに注意TSMCは世界の最先端半導体の67%を製造しています。台湾有事の際は、世界のテクノロジー産業に甚大な影響が及びます。投資家は台湾情勢を常に注視する必要があります。
Micron - 米国唯一のメモリ大手
企業概要
| 項目 | 内容 |
|---|
| 設立 | 1978年 |
| 本社 | 米国アイダホ州 |
| ビジネスモデル | IDM |
| 2024年売上 | 約250億ドル |
| 製品 | DRAM、NAND、HBM |
Micronの強み
| 強み | 内容 |
|---|
| 米国唯一 | DRAM/NANDを製造する唯一の米国企業 |
| HBM参入 | HBM3Eで市場に本格参入 |
| 政府支援 | CHIPS法で数十億ドルの補助金 |
メモリ市場の特性:シリコンサイクル
メモリ市場は需給バランスで価格が大きく変動 します。
| 局面 | 状況 | Micronへの影響 |
|---|
| 好況期 | 需要>供給、価格上昇 | 利益急増 |
| 不況期 | 供給>需要、価格下落 | 赤字転落も |
2023年は在庫調整で苦境でしたが、2024年はAI需要(HBM)で回復しています。
投資ポイント
| 項目 | 評価 |
|---|
| 成長性 | ○(HBM需要) |
| 安定性 | ×(シリコンサイクル) |
| タイミング | 重要(景気循環を意識) |
| 適した投資家 | 景気敏感株、逆張り投資 |
企業別投資ポイントまとめ

8社比較表
| 企業 | 分野 | 成長性 | 安定性 | 主なリスク |
|---|
| NVIDIA | AI GPU | ◎ | △ | バリュエーション |
| AMD | CPU/GPU | ○ | △ | NVIDIAとの競争 |
| Intel | CPU | △ | ○ | 復活できるか |
| Qualcomm | モバイル | ○ | ○ | スマホ市場成熟 |
| Broadcom | 通信他 | ○ | ◎ | M&A統合リスク |
| Micron | メモリ | ○ | × | シリコンサイクル |
| TSMC | ファウンドリ | ○ | ◎ | 台湾リスク |
| ASML | 製造装置 | ○ | ◎ | 需要変動 |
投資スタイル別おすすめ
| 投資スタイル | おすすめ企業 | 理由 |
|---|
| 成長重視 | NVIDIA, AMD | AI・データセンター成長を享受 |
| 安定重視 | TSMC, ASML, Broadcom | 独占的地位、高い参入障壁 |
| 高配当 | Broadcom, Texas Instruments | 安定したキャッシュフロー |
| バリュー | Intel | 割安だが復活に賭ける |
| 景気敏感 | Micron | シリコンサイクルの谷で買い |
ETFという選択肢
個別株のリスクを避けたい場合は、半導体ETFも選択肢です。
| ETF | 特徴 |
|---|
| SMH | 大型半導体株に集中 |
| SOXX | 幅広い半導体株をカバー |
まとめ
本記事では、半導体業界の主要8社を分析しました。
各社のポジション:
- NVIDIA:AI GPU独占、CUDAエコシステムで競合を圧倒
- AMD:CPU/GPUでIntelを追撃、TSMC活用で躍進
- Intel:製造遅れで苦戦、IDM 2.0で復活を目指す
- Qualcomm:モバイルSoCと5G特許の二本柱
- Broadcom:M&Aで多角化、カスタムAIチップも
- Micron:米国唯一のメモリ大手、HBMに期待
- TSMC:ファウンドリ67%シェア、最先端で独走
- ASML:EUV装置100%独占、サプライチェーンの急所
投資の視点:
- 成長重視ならNVIDIA、AMD
- 安定重視ならTSMC、ASML、Broadcom
- 分散投資ならETF(SMH、SOXX)
次回(最終回)は「AI時代の半導体と地政学 - 投資家が知るべきリスク」と題して、AI需要の見通し、米中対立、台湾リスクなど、投資家が注意すべきリスク要因を解説します。
シリーズ目次
- 半導体とは何か - 1兆ドル市場の全体像
- 半導体の種類を理解する - ロジック・メモリ・アナログ・パワー
- プロセッサの世界 - CPU・GPU・SoC・FPGA・ASIC
- サプライチェーンを読み解く - 設計から製造まで
- ビジネスモデル3類型 - IDM・ファブレス・ファウンドリ
- 主要企業徹底解説 - 誰が何を支配しているか(本記事)
- AI時代の半導体と地政学 - 投資家が知るべきリスク